Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

ドラフトを振り返る 最終回 悩虎編

 去年の10月からですか、遅々として進まなかったこのシリーズもめでたく最終回、本日は我が阪神タイガースです。

 総括でも繰り返すと思うのですが、今の阪神のスカウト、たいへん良いです、冗談抜きで。なんで急にこんなに良くなるのだろう・・・・? まったく謎である。

 なので、彼らが選んだ選手にどうこうというのはないんです。ただまぁそこは各球団平等に、極めてシニカルに書いて行こうかと思う。

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<本日の謎>

 森木の謎

 まず一位の森木はドラフト前に書きました。

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 良くてヤクルト梅野の上位互換。悪けりゃそのまま梅野を一回り大きくしただけって感じか。なので、夏の甲子園前に雑誌「ホームラン」の表紙を飾ったりして、いかにも今年一番の目玉みたいな扱われ方をしているのが不思議で仕方なかった。

 スリークォーターは別に悪いわけではないが、この手の投手で戦力になるタイプは腕が撓って長く見えるものなのですが、残念ながら森木にはそれがない。なので本当に一位入札があるのか注目していました。そして結局それはなく、外れ一位重複さえも・・・・。西純とまったく同じパターン。

 正直言うと、あの時も西純より及川を評価していたのですが、

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 森木はさすがに三位はないが、蓋を開けたら二位でも不思議ではないと踏んでいました。仮に阪神が入札してなければどうだったのか、広島あたりが拾ったのかなぁ・・・・? 

 私は直接一度も森木を観ていないので、こういう物言いはどうかと思うのだが、ここまでの軌跡、怪物中学生を経て現在に至る経緯、球速は中学時代に150㌔で高三で154㌔ などなどを傍から眺める限り、やはり伸び代を感じることができない。

 ただ、実際に森木の投球を何度か観たり取材した方ほど、逆に森木のプロ入り後の成長の余地を示唆している点には明るいものを感じる。実際堂々のー位指名なわけですし。本音で言うと阪神フアンとして、自分の勝手な思い込みが外れて欲しい、そして阪神のスカウトや「野球太郎」の評価こそが正しい、そう心から願っています。

 まぁぶっちゃけ、これ以上はここでとやかく言っても詮無い話。森木自身にマウンド上で証明してもらうしかない。とはいうものの、そう流してしまうとわざわざブログで取り上げた意味がない。なのでそのあたりをもう少し食いついておきます。

 まず、やはり彼の生命線であるストレート、プロ入り後本人が目指す、そう宣言した160㌔に手が届くのだろうか・・・・?

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 ここで少し遠回りして、十年ほど前、野球オタたちの胸を揺さぶったある発言をご紹介したい。それは、

プ口入団後、球速が落ちるのは当たり前

 これは当時の中日の中田編成部長の言葉。ソースが見つからないのが残念なのですが、続けてこうも言っている。

確かにハードな練習をすれば、多少速くなる投手もいます。でも、大半はプ口に入ってストレートの球速が落ちます。というか、落とすんです」。

 でっ、この発言のポイントは二つある。まず一つ目はその対象。どうやら高校生も含まれているということ。もちろんすべての高校生がというわけではない。スカウトが注目し、ドラフト候補に名前が上げられる、そんな投手はということだった。

 この発言を受け、私の周囲がかなりざわついたのを覚えている。私自身も、厚かましくも知り合いの野球関係者に直接この発言をぶつけてわざわざ真偽を訊ねた。特に高校生投手についても当てはまるのかと。

 シンプルにいえば答えは ”Yes” 。もちろんいろんな前提があっての話だが、概ね納得とのこと。それは少なからず私の中で衝撃だった。と同時に、我々野球オタにとってある種神話の域に達している ”江川選抜甲子園最強伝説” に現実味が帯びた、そう想起した。この件についてはいつか書こう。

 次にポイントの二つ目であるが、それはこの発言の重さ。なぜならスカウトを束ねる編成側が、そう言葉にしたからである。そこに尽きる。

 そもそも私が知っているスカウトたちは、そういう発言はしなかった。例えば暗黒時代の阪神のスカウトなどは、140㌔出るか出ないかの高校生を連れてきて、フォームが奇麗だから、とか、身体にバネがあるから、とか聞こえの良い方便を盾にして持ち上げたうえで、プロ入り後、三年もすれば常時145㌔以上投げられるようになるはず、太鼓判! そんな無責任なコメントばかりであった。つまり後はコーチが育てて伸ばすんだから知らん、そういうこと。

 確かにプロには科学的、また体系的に優れた指導法が存在する。何よりコーチは己の経験則に基づき、商売として生活を賭けて選手を指導するわけだから、アマチュア時代より高度な育成環境がそこにはあるはずだ。しかも、アマとの指導法とは、目指す方向性がそもそも違う、というのもある。つまり、プロではその長きにわたるシーズン、2月のキャンプから秋の合同練習まで、ほぼ一年間投け続けられる体力こそが求められているのであり、そのうえで各々の投球の再現性が大事、ということ。年に一ヵ月間、ベストの状態なら160㌔が投げられます、というのとは本質的に異なる。そのためのプロとしての指導ということ。

 やはり先の中田氏の発言は特別であった。育成する側のよくある言い訳ではなく、いみじくも選手を選び、送り、委ねるスカウトの口から出ただけに重いのである。

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 私は森木に160㌔も将来のMLBも望まない。まずはシーズンを通じて平均145㌔、先発として5イニング投げ切れる体力をつけることを願う。そう念じて彼の投球を改めて点検すると、やはりシュート回転するストレートに課題を感じる。さらにいえば、プロで通じそうな変化球が縦のスライダーしかないというのも心許ない・・・・。

 指名後、森木は腕の位置を上げ、ボールの回転軸を意識して、具体的に1時10分の角度で投げられるよう取り組んでいるとのこと。意識の高さが伺えるとともに、ドラフト前に期待されたー位入札に届かなかった背景についての分析にも怠りはない。本人の目指すところ、描く未来図にも間違いはないだろう。

 ただ、ここに来て腕の位置を変えるというのはどうか。色んなところへの影響は必至。それになぜ高校で腕を下げたのかという謎も依然残ったまま。初心に帰って中学時代のフォームに戻す、ということか? まぁ、本人も承知の上でとは思うが、ゼロから出直す覚悟が必要とされるだろう。そういう意味では二軍のキャンプ地である安芸は地元でもあり、自分のペースで取り組めるのではないだろうか。

 また森木で気になるのは精神面。中学時代から期待を背負い続けたストレスもあるのだろうが、自分を見つめ直すとして寮を出て自宅から通ってみたり、頭を修行僧のように剃り上げる姿には迷いと、どうもパフォーマンスが先行するタイプなのでは、という危うさを感じる。

 また、あれほどまでに彼と周囲が熱望した甲子園は一度も叶わなかったというのに、彼の引退後、特に戦力面で秀でているものがあるわけでもない後輩たちがあっさりとそれを成し遂けるあたりに、何か憑き物が落ちた、そんな感覚が野球部にあったのではと、そして四国の怪物が在籍した三年間、高知高校も張り詰め続けていたのだろうと察する次第である。

 いろいろと未回収のものはあるが、幼い頃から地元の熱い期待を背負い続け、藻掻きながらも森木はプロに辿り着いた。望み通りのドラフトー位で。しかも指名したのは高知とは浅からぬ縁のある阪神。運命を感じるではないか。鳴呼、この二月、一度でいいから安芸に行きたい! 虎フアンとして彼をウオッチするのは野球オタ冥利に尽きますわ。まったく楽しみである。

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 二位以下の皆さんの謎

 二位の鈴木は馬カだけならカープの一位黒原と遜色はない。迫力はこっちが上。ただあえて乱暴な言い回しをするが、変化球がスライダーしかないのだ。チェンジアップもあるにはあるが、今のままではプロ入り後投げることはないだろう。そこに順位の違いが出たか・・・・。

 果たしてフォークは投げられないのか投げたくないのか、鈴木の謎はそこだ。そのあたりはキャンプではっきりするだろう。こちらも楽しみ。ただこの二種類でも、及川が先発に回った後釜は務まると思う。中継ぎで頑張って欲しい。本人は先発志向かもしれないが、そこはしっかりと首脳陣が説得すべきだろう。

 三位の桐敷についてはここ、

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 ほぼ伝えておきたいことは書いた。なので、とにかくスライダーが本当に良くなったのか、そしてどう良くなったのか、幅なのか角度なのか、そこを見極めたい。桐敷の謎はそこ。2月の練習試合には出てくるだろう。しっかりキャンプで見届けたいと思う。

 スライダーのキレ如何ではー気に新人王候補にも成りえる、真剣にそう思う。今年の一軍キャンプのー番の楽しみである。

 4位の前川についてもここで書いた、

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 こちらもほぼ語り尽くした。

 後ろの膝というのは打者にとって重要なパーツである。ここの形が変な打者で大成したケースを私は知らない。何でも形は大切なのだ。たとえば身内でいえば北條である・・・・。

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 この右膝の向き、変だと感じませんか? スイングの後、前の左膝がショートあたりを向いているのに、なぜ後ろの右膝が一塁を向いているのか? 右打者は少しでも速くー塁に到達することを意識しているからだ、そういう見方もあるのだろう。しかし私の見立ては違う。上の写真の打球はいずれも投手より左。つまり引っ張り込んでいる。だからスイングの後もしばらくは、前の膝や腰の回転に引っ張られる形で後ろの膝もショートあたりを向いていないと。たとえば同い年の大山の場合、

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 両膝は揃って同じ方向を向いている。これが普通。では何故北條の両膝はスイングの後違う方向を向いているのか・・・・?

 答え、それは北條が後ろ脚を引き、そして右膝の回転、送りが甘いから。だからああも簡単にスイングの後一塁に向かって切り返せるのだ。こういうタイプの打者に飛距離は望めない。ショート、セカンド失格で、サードしかない北條に長打は必須だというのに、である。まぁフェニックスでライトにホームランという情報もあるので、少しは変わったかもしれないが、その後すぐに怪我・・・・。安芸で出直して欲しい。

 すっかり北條の話に変わってしまったが、言いたいことはー点。前川の後ろ脚の膝の向き、そこが謎なのである。しかし安芸ではその謎解きはしない。まだ卒業式前の高校生。夏頃に鳴尾浜で直接確認したいと思う。

 5位の岡留はサイドからのカ投型。ぎこちないテークバックから強い球を投け込む。タイプ的には桟原か? 2位の鈴木同様縦の変化球が欲しい。ツーシームで三振を取ってはいるが、どうにも東都のストライクゾーンはガバガバ。プロはあの球に手は出さない。

 岡留はフォークやシン力一は投げられるのだろうか、そこを謎としたい。東都のストライクゾーンとスピードガンが謎であることも申し添えておく。

 6位の豊田は高校時代に夏の甲子園を制したチームの4番、であるがその割に目立たなかったか。要所で怪我をするところもマイナスか。打撃は相変わらず左腰の開きが早く、投手としてはシメシメなのだが、この選手の真骨頂はここからで、後ろ脚に重心が残っているので粘れる。先に挙げた北條、そして江越はここで残せず前に突っ込んでしまう。 まぁもちろん豊田がプロの攻めの前に重心を後ろに残せるかといえば、春先はその限りではないだろう。

 変化球はそこそこ上手く打つようなので、150㌔近いストレートの反応も見てみたい。でっ、この選手の謎はグリップ。細いタイカップ式で左小指は掛けずに、そしてゴルフグリップ・・・・、まさに謎。これ、プ口でも続けるのだろうか? また北條の話になりますが、彼の高校時代も同じくゴルフグリップ。プロ入り後速攻でやめています。果たして豊田はどうする? 安芸でもこの謎が引き続き見られるのか注目! 同い年の小野寺よりはこっちが1軍ではやると思いますよ。

 7位の中川は桐敷と同じくお値打ち指名で書きました。とにかく勝負強い。ただキャッチャーだけに出場機会が・・・・。できれば外野やセカンドの適正も見てみたいのだが。

 また脚の速さはどうなのか? 夏はホームランを二本打ったが二塁打三塁打はなかった。つまり走る姿を観れなかった。文字通り謎はそこか。

 育成ー位の伊藤は変則気味のスリークォーター左腕。小さいテークバックでインステップ気味に踏み込み140㌔台を投げる。ただコントロールに難あり。

 因みに筒井の初荷。その配置は正しかったのか? 彼の活躍が筒井のスカウトへの異動の謎を解くだろう。単なるジョブローテーションではないと思いたい。

 総括

 ここ数年、阪神のスカウトの皆さんの質は本当に上がった、そう実感している。それは去年のドラフトでも同様。暗黒時代や岡田政権時を知る者として感慨深いものがある。是非とも引き続きよろしくお願いしたいものである。

 これまでの流れでいえば、持ち上げた後、必ず綾をつけるのだが、今回はそれをしない。今は優秀なスカウトたちの労を報いたい、ただそれだけだ。本当に一年お疲れさまでした。

 明日はキャンプ初日。正月である。今はやっかいだったシリーズを区切りまでにようやく片付け、まさに年越しの気分である。

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