Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

ドラフト備忘録 2026 伊藤擢人ってどうよ?

 暑い日が続いています。

 八月の盆明けぐらいに盛りは過ぎたかと思ったものですが、騙されました・・・・、まんまと。当極北のブログに訪れる奇特なみなさんも、どうかご自愛くださいませ。

 

 さて、久しぶりの更新ですが、ブロガー(死語)としての近況は最低・・・・。まだまだ気軽に更新できる状態ではありません。仕事も家庭もイベント続きで大わらわです・・・・、いやいや、ホンマにホンマでっせぇ。十月に入ってようやく落ち着くかもです。

 そんななか今日更新したのには訳があります。やっぱりこの秋のドラフトについて、ここらでなんか書いとかないとね。食いつきが一番ええし。

 

 

 今年の甲子園は、ホント夏枯れって感じでした。なんでそうなるかといえば、やっぱスラッガーがいないから。さっそく広岡が噛みついています。

www.ronspo.com

 しっかし、クレイマーやで、この爺さん。

 これを受けて、5chでも議論されているようで・・・・、がっ、読んでないっす。

 5chさぁ、なんとかならんのかあのエロ広告! 読んでる際に、嫁や娘に後ろに回られたらどうすんねん! まぁええけど。

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 この夏、甲子園で一番感じたのはこれ!

 

 スタンドにはそんな雰囲気、確かにあった。塩試合が多いんだよね。

 ホームランはアマ野球であっても、やっぱり華なんです。ラッキーゾーン復活待ったなし、真剣にそう思うよ。

 でっ、この秋の候補者を眺めていても、大物打ちという観点で大社に枠を広げても、 出物はいないですね・・・・。

 そんななか四年前、森下が阪神に入団したのを機に、森下ウォッチャーを卒業する、そしてここからの四年、こいつを追い続ける、そう宣言した。それがこの男ですわ。

tilleternity.hatenablog.jp

 あれから四年・・・・、どうしたもんかー皮むけんね・・・・。

 この春はそこそこやったけど、ありゃ東都が飛ぶボールを使いだしたからです。それまで三割打者は四、五人しか出なかったのが、一気に倍以上。

 ただこの子のホームランを眺めている限り、飛距離はどれも115m以上飛んでいるので、まぁ良いっかな。ただし音は普通。それでもそこそこは飛ぶので、最大の売りは打ち出しの角度ということになる。谷端、佐々木泰、西川にそれはなかった。

 今シーズン、立石、松下の両スラッガー候補がケガなどで出遅れるなか、一人気を吐いているのが宮下。やっぱ東都で揉まれた子は、四年間たいして結果を出せなくても、プロに入ってから伸びるね。

 来年は立石、松下が一気に宮下を捲り上げる活躍をする可能性は十分にあります。それでも宮下がこの一年示した対応力を見過ごしたらいかんと思う。もちろん私が腐した小島がしっかりバットで魅せている事実も、ちゃんと直視したうえでね・・・・。

 

 ちょっと回りくどくなったけれども、結論を言えば、伊藤櫂人も案外評価されているんじゃないか、そんな風に感じている。ドラフトサイトやネットスカウトのyouTuberたちからは、ガン無視されていますが・・・・・。スカウトは見てると思いたいもんです。

 

 ということで、この四年、ほぼ彼の打席はすべてチェックしましたので、私なりにどんな打者なのか書いてみます。ウォッチし甲斐があったかといえば、残念ながらそこは違う。でも森下の時もそうでしたよ。

 今年、盟友である輝と堂々ホームラン王を競ってますが東都の四年間、彼のホームラン数はたったの9本。ベストナインも二度。伊藤は一応11本まで持ってきているし、ベストナインも同じく二度。まぁだからどうってことではないのですが。

 技術的な話をする前に、まず伊藤の内面。

 かなりの困ったちゃんです・・・・。

 おそらく、ホームランを打った時、彼ほどゆっくりダイヤモンドを回る学生はいないでしょう。審判や相手ベンチだけではなく、味方ベンチからも、

 「速く戻ってこいっ!!」

 そんな怒号が飛んでるんじゃないですか。

 

 去年チャンスで打席に立って、走者が盗塁を仕掛けて憤死。直後、あからさまにむくれたことがありました。ベンチでも吠えたと思われます。翔太もよくやってました。まだ子供やから、そこはしゃあない。

 翔太の時は上に牧がいたので諌めてやれたのですが、繁永や皆川にそれができたか? 結局以降の試合、わかりやすく干されてました。

 去年の冬には髪を伸ばすだけではなく、髭まで生やす有様・・・・。こいつ大丈夫かよ、真剣にそう思いました。

 実際この春も最初八番でした。清水さんも手を焼いているようです。

 問題の多い選手ですが、打席では比較的ノーマルなタイプ。先制ダメ押し型か、起死回生型かといえば前者です。ただ打点が少ないのは気になる。走者がいると小さくまとまるようなところが伺える。西谷さんはそこを感じ取っていたからこそ、何も考えずに打席に立てる一番に据えたのかもしれません。

 この四年間で体格もすっかりと変わりました。がっしりと厚みが加わった。急にビルドアップしたので、瞬発力はなくなった。もう少し絞った方がいいかな。ただお母さまが結構骨太な方なので、体がこなれたらスピードが戻ってくる可能性はあります。

 

 伊藤櫂人を語るとき、特筆すべき点はバット操作です。

 リードする左腕の無駄のない動き、柔らかさは見事。だからゆっくりしたスイングでもヘッドが走ります。

 しかし、である。伊藤の中大入学からの四年間とは、必ずや通じると思われたこのスキルが、まったく大学野球レベルでも火を噴かないことへの不信と不安と焦りが複雑に入り交ざった時間の堆積であった。悪く言えば時代遅れなんだよね。比較的重めのバットを持って踏み込んで、前さばきの良さで柔らかくボールを運ぶというのは・・・・。

 今はプロが持つバットは800g台の軽めのものが主流。高校生がみんな、900g以上のものを振っているのにです。この逆転現象は定着。おそらく大学も同様に軽め。なので、バット操作の巧拙が打者の成績には表れにくくなってきている。

 伊藤が脚の速い左打者なら今でもあのバット操作はありです。でもそうじゃない、右打者。そして脚は普通。守備も肩も上では売りにできない。ならばプロで活きていくうえで長打が必要。悩ましい・・・・。

 中途半端な右打者って、ほんと微妙なのですよ。去年、阪神は谷端を吉野が母校から引き取った。今年、彼は大物で苦しんでいます。いやぁ・・・・マジ苦しみ続けると思う。百崎もそうだけど、この手の打者は、やっぱり一発がないと生き残れない。

 じゃあそれを叶えようとすれば、道のりは果てしなく遠く、そして険しい。簡単にそれができたなら、北條は今でも現役でやってるって。

 

 たぶん、NPBではここ二、三年のうちに、フロントレッグヒッターの長距離打者が駆逐されると思っています。たとえば中村剛。彼は紛れもなく前で回って打ちたがるタイプでした、利き足が左っていうのもあるのですが。大山や山川も比較的そのタイプだし、中田翔もそうでした。

 二十年前にはたくさんいました。ノリ、小久保、村田・・・・。

 彼らが今、NPBにいたらどうなっただろう。案外後ろに残して上手くやっていったような、そんな気もします。それは村田の薫陶を受けた岡本が、ブルージェーズで十分に通じていることでもわかる。ただ、打席の位置は後ろに変えたのですよね。

 後ろだの前だのフロントレッグヒッターだのと言いましたが、要は突っ込まずに、いかに重心を後ろに残してそこで回るか、バットを振るか。だから、ポイントは前でも良いんですよ、これ重要!

 後ろに残すのとボールを引き付ける動作は、ほぼ同じ体の動き。いずれか一つできれば両方クリア。繰り返しになりますが重要なのは、打つポイントではなく、体が打ちに行こうと前に流れるのを軸脚でこらえること。

 伊藤がこの四年間苦しんだのは、前でさばけるので、後ろ脚を引いて、軸をズラして、 前に出てショートの頭から右へ打つような打席が増えがちだったこと。そこそこ結果は出るのだけど、これでは上でまったく通じない。せっかく角度を持っているのだから、後ろに残して引っ張らなければ意味がない。でも結果も必要なので前に出ちゃう、この繰り返し。

 この春までの伊藤の通算三振率はほぼ三割。これだけみれば荒っぽくて外の変化球に対する感受性の低い打者のように見受けられますが、そことは線を引ける。あれは投手やバッテリーではなく、後ろに残すこととの闘いの中の空振りだったから。

 その証拠というわけではないですが、伊藤の出塁率を確認して欲しい。打率より一割高い。ボールはしっかりと見えている、でもそれ以上に打席の中のその気配が、 バッテリーに伝わるからこそ出塁率が高くなるのです。東都時代の翔太も同じでした。

 この秋、彼はどんな成長を見せてくれるのでしょうか? 正直、結果はどうでも良いと思っている。スカウトもそこはー緒かと。

 四年間悪戦苦闘の末、ようやく辿りついた自分のスイングを徹底して欲しい。

 後ろに残して振り切る!

 打席でそれを見たい、見せて欲しい。ウォッチャーとしての願いはそれだけなのですよ、ええ。

 

 本日は以上です。

 

 感想、意見、ツッコミなどがございましたら、X(旧Twitter@HakudouMeifu までお願いいたします! 

【 更新再開 】ミスターの遺言

 半年ぶりの更新。お久しぶりでございます。

 

 

 この半年、いろいろとあり、日常生活を優先させていただきました。

 またここ数年ずっと感じていたことがあって、それを簡単にいえば己のインプット不足。これに尽きる。まぁ、才能不足や実力不足と置き換え可。要は人として足りないな、と・・・・。

 また年が明けてから仕事が忙しくなることもわかっていましたので、半年の期限を設けてブログとは距離を置くことにしました。その間、なるべく本を読んだり映画を観たり仕事も頑張ったり(白眼)、それからyouTubeもできるだけ見るようにしました。

 特に何かが身についたというわけではありませんが、あっという間に半年経ってもうたわ。今日ここに再開の運びとなりました。

 これからも当極北のブログ、細々と運営できればと思っております。今後ともご贔屓によろしくお願いいたします。

 

 でっ、再開一発目は、このネタ。

www.nikkansports.com

 高野連が7回制支持を取り付けるために会議に送り込んだ刺客である栗山の顔など視たくもありませんが、長嶋さんの想いを胸に刻んで、今一度、高校野球のあり方について考え直して欲しい!

 百歩譲って酷暑対策なのならば、春は9回制でええでしょうに? なのに ”28年センバツから導入”って意味わからん。

www.nikkansports.com

 外野が何を言ったところでどうにもならんところが虚しいっす。

 高校野球を高野連から取り上げて、春夏の甲子園は高体連に開催させたらどうか・・・・?

 まぁええわ、とりあえず継続的にウォッチしていきたいと思います。

 

 それと。ブログと距離を置くことになったといえばこれ、

number.bunshun.jp

 なんであかんかったんやろ・・・・。

 いまだに納得できてません・・・・。

 

 当ブログ最初の頃からの読者の方なら、私がどれだけ井上広大推しであったかは自明なはず・・・・。嫁もファンでした、ええ。

 安芸まで行った日々を思い出すだに涙に暮れます。

tilleternity.hatenablog.jp

 

 遠藤もそうですが、なんで阪神は高卒野手を育てきれないのでしょうか?

 二人に何が足りんかったんや・・・・?

 もしかするとこのあたりに原因があるのではと、実は薄々ずっと気になっていた事があって、それでこの半年勉強し直しました。久方ぶりにバッティングセンターにも通ったで、いやマジで。

www.attaboybaseball.com

 この理論、反論は多い。

 ピンがこれなら

www.youtube.com

 キリはこれか、

www.youtube.com

 でもこういうのもあるわけで。

www.youtube.com

 

 このあたりについて自分なりに答えが出たので、これからじっくりと書いてみたいと思う。

 

 最後にラグビー。

number.bunshun.jp

 マジで、「このままでは日本代表は弱くなる」と私も思います。ホンマにどうすればええんやろ・・・・。

 同感していただける方は、ぜひ一度、この本読んでください!

 

 図書館に行けばまだ余裕である。

 特に飯島さんと大久保の話は必読!!

 藤原さんの記事もできれば!

 藤島大のコラムは読み飛ばして構いません!!!

 ラグビーネタについても、腰を据えてここで語り続ける所存です。

 

 というわけで、今後ともよろしくお願いいたします!

 本日は以上です。

 

 感想、意見、ツッコミなどがございましたら、X(旧Twitter@HakudouMeifu までお願いいたします! 

高校野球9回制死守、ご協力の依頼!!

 高野連、ついにやりおったわ・・・・。

hochi.news

 

 絶対に阻止せねば!

 というわけでご協力お願いいたします!!

www.change.org

 

 

 

 

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『球界転生』 #30

 「行けるで!

 藤本はマウンド上のホークスの光景をつぶさに見てそう独り言をいうと、腕を組んだまま立ち上がった。岡田は先ほどからさかんにベンチを見ている。藤本はそれに気づきながらもあえて目を閉じた。

 村山は喰い入るようにモニターを眺め、試合直前に言った藤本の言葉を思い起こし、そしてついに古狸の通りの試合展開になった、流石やないかとボールを足下に叩きつけた。

 

 

 マウンドに上がる佐藤道の姿がスコアボードのビジョンに映し出されている。佐藤道は野村にとって子飼い中の子飼いであった。野村だけでなく沙知代にもいたく可愛がられ、二人の教えを忠実に体現しながらも、不思議と周りから浮くことはなかった。裏表のない佐藤道なら敵の多い野村と周りを結び付けえる、打って付けの存在であることを鶴岡が見越したうえでの人選であった。

 勝負を左右する大きな場面での登板に、強心臓で鳴らすさしもの佐藤道も緊張した面持ちでマウンドに登ってくる。野村はなんとか笑顔を繕って迎えた。

 ” おまえでも緊張するんやな ”、野村はまず冗談まじりに言う。そしてすかさず安心させる材料を与える。ワシは今岡のことはすべて判っていると、自分のリード通り投げろと。続けて阪神の監督時代を通じて、知っている限りの今岡についての情報を早口で伝えた。

 まず今岡は追い込まれるまで低めは打たない。だからカウント負けはしない。全球アウトコース低め、釣り球はいらないうえに、胸元を攻めて起こすなど論外。顔に来たボールをスタンドに放り込んだこともあるのだと強調した。

 つまりは近めの高めは禁物なんやと念を押し、さらに膝元をえぐる必要もない、自打球が当たると逆に厄介なことになると付け加えた。佐藤道はさすがに自打球がなぜ厄介になるのか、理解ができず野村を見返した。すると野村はー瞬答えに窮し、そして上手く言えないがと断ったうえでスイッチが入るのだと言った。それでも少し首を捻る佐藤道に、

 ” ・・・・集中力が高まるんやろな。とにかく今岡というのは変な奴なんや。しかしワシはあいつのすべてを知ってる。何も考えるな、ワシにまかせろ” 。

 そう繰り返して納得させようとする。

 ” いずれにしてもリード通り投げれば打たれても、長打を喰うことはない。一塁の藤村が帰ることもない。絶対にパスボールはせん。安心して低めを投げろ。クイックも気にするな、おまえのグラブの動きもそのままで構わへん” 。

 そう一気にまくし立てた。

 佐藤道はセットでもグラブを持つ左手を高く上げる、いわゆる威嚇型の投球フォームで、ゆえに盗塁を許すことが多かった。しかしそれも気にしなくて良いと野村は言う。

 ” もし脚を使ってきても、二塁で絶対に刺してやる。三塁は景浦や、重盗もない。ここを抑えたら勝てるで ”。

 野村は最後までー方的にしゃべり続けたが、笑顔を添えるのも忘れなかった。その姿を間近にしながら、昔と変わらないなと佐藤道は思った。

 帰り際もう一度振り返り、おまえのスライダーは打てない、低めの重要性をおまえなら判ってるはずや、そう釘を刺しようやく背番号19は持ち場へ戻っていくのであった。

 

 佐藤道は用心深い野村が特に口元を隠さず言うからには、 絶対に自信があるのだろう。サイン通りに何も考えなくて良いのなら、逆に楽なもんじゃないかと自分に言い聞かせた。

 気難しい野村であったが、佐藤道は新人の頃から不思議とウマが合った。沙知代も含めて、家族ぐるみの付き合いができたのはおそらく自分だけであろう。野村の話には笑って肯けば良いだけ、それを他の投手たちはなぜできないのか、むしろ不思議でならなかった。



 初球、アウトコース低めのスライダー、今岡は興味もなく見逃した。今岡はここまでセカンドゴロ、ファーストファールフライにショートゴロ。斉藤のストレートに珍しく刺され、杉浦、皆川のカーブにはまったくタイミングが合わなかった。

 野村が後ろからボソボソ話しかけてくる。今岡は何も考えないことにしていた。野村政権下三年間の屈辱を思い出せばいい、それをやり返すチャンスが来たのだと身体の内から、不思議なほどに自然と闘志が湧いてくるのを感じていた。

 

 ツーストライクワンボールからの四球目。アウトコース低めのストレートを打った打球はー塁側スタンドへライナーになって消えた。今岡は佐藤道のストレートなら反応で打てると思った。後はスライダーの見極めだけだ、上手く芯に当てられればライト戦を破れるはず。今岡はとにかく反応だと自分に言い聞かせた。

 五球目のスライダー、今岡は再び一塁側へファールを打ち上げた。また浜風で戻って来るかと最後まで松中は追ったが、フェンスの向こうに打球は落ちた。やれやれと一呼吸入れるところだというのに、なぜか一塁走者の藤村が二塁上で悔しがっている。二死だから自動的にエンドランになるのは理解できたが、悔しがる理由は謎であった。まさか単独でディレードスチールを画策していたのか・・・・。

 藤村は佐藤道が投球すると同時にユルユルと走りはじめ、そしてバットがボールに当たる直前あたりで猛然とアゴを出し両手両足をバタつかせ二塁へと向かったのだ。

 それにしては藤村のリードは短く、そしてその後の動作も緩慢であった。ただ大袈裟な仕草で必死に走っていることは観客に確実に伝わった。どうやらヒットを打ち出塁したことで、気合が漲りはじめたのかもしれない。

 六球目のスライダーも今岡はファールで粘る。藤村も先ほどと同様にスタートを切っていた。しかも二塁を大きく回ったところで、ファールかよとこれまた大袈裟に悔しがって見せるのであった。おいおいどうやら猛虎のなかの猛虎が、本気で二塁を狙ってるようやで、ファンはやんやの喝さいを送り出した。

 マスクを被る野村はそれを冷淡に流した。

 ” なにをやっとるんや、ここはランナーを貯める場面やろ。二塁になんて価値などないわい。景浦に連動する素振りもない。そもそも一二塁間が空いとる方が、今岡にはナンボも美味しいのは判っとるやろうに・・ ・・” 

 

 七球目もまったく同じシーンが繰り返された。今岡はホークスバッテリーが執拗に繰り返す外スラを、なんとか一塁ヘファールする。すると藤村は、今度はどう見てもファールになるのが判ってから全力で走り出したクセに、こともあろうか二塁に頭から突っ込んで見せた。そして土と砂で真っ黒になった胸を、大きな仕草で荒々しくはたくと、仕上げとばかりにゲホゲホと咳払いまでしてみせた。

 これには甲子園もどっと沸いた。藤村はあくまで照れながらも、手を挙げそれに応えてからゆっくりと帰塁しようとする。しかもスコアボードのビジョンに自分の姿が大映しになると、 ” よせやっ ” 、と寄ってきたカメラを手で遮る。またそれで観客が沸き返る。藤村は満面の笑みを湛えて一塁に辿り着いた。

 

 藤村の一挙手一投足に沸き立つ甲子園をよそに、打席の今岡は頭を抱えていた。藤村の動きで気が散り集中できない、というのもあるが、それ以上に藤村の走塁自体が危なっかしくて、少々ボールでも手を出さない訳にはいかない。ストライクゾーンを広めにするどころか、ボール球にも手を出さねばならない始末であった。二塁で憤死されたら一巻の終わりなのだ。これではとてもカウントを整えられないと、思わず打席を外した。

 それを横目に野村は、

 ” 今岡め、柄にもなく困っとる。しめしめやで。

 しかしあのおっさん、このまま勘違いしてほんまに走ってくるんと違うか? スタンドが盛り上がるのを真に受けて、俺様が走るのを持っているなどと勝手に誤解して・・・・。

 いずれにしても今岡が迷ってるここが勝負や ” 。

 そう冷静に状況をスタンドの歓声から切り取ると、まだ見せてない縦スラを外の低めへとサインを出した。三塁に走者を背負った場面で、叩きつけてワンバンになるリスクのある球ではあるが、今岡の外への目付けが狂っている今なら少々外れても振ってくる。つまりストライクは要らない、これで決める。そしてそのサインに以心伝心の佐藤道は肯くとセットを解き左脚で踏み込みグラブを高く突き上げた。

 その瞬間、

 ” 行ったっ!

 一塁から大きな叫び声が飛んだ。

 佐藤道は咄嗟に、絶対に刺すという野村の言葉を思い起こし高めに外す。野村は二塁への送球にすべてを集中させながらも、三塁から景浦のスタート次第で声が掛かるのを待った。

 ウエストしたボールは真ん中外寄り、立ち上がるとちょうど胸の位置で、捕球に合わせて右に流れればそのまま送球動作に入れる絶好の高さであった。

 ” 確実に刺せる!

 野村は三塁からの合図を送球の瞬間まで待つ覚悟で腰を上げる。同時に視界の片隅で、セカンドに向かう藤村の姿を確認しようとした。止まったり途中で足を緩めれば躊躇わず佐藤道に返す、一瞬にしてそこまで頭が回った。この場面における野村の一連の対応は、試験であれば間違いなく満点である。しかし、そこに動くものはなかった。

 ” 偽走?!

 ” ・・・・罠!!

 野村がそう戦慄した瞬間、今岡のバットが半身に構えた野村の目の前に現れた。いろんな処理を同時に、そしてそれらを一気にこなそうとする野村の頭の回転速度に反し、それは実にゆっくり、ゆっくりと野村の視界の前を通り過ぎていく。

 ” しまったっ!!!

 今岡がバットを一閃する。その姿はまさしく一撃必殺の大根斬りであった。

 

 乾いた音を立てた打球はセンターの左、終盤になりさらに強くなった浜風が押す。手応えで確信した今岡は豪快にバットを放り投げた。

 ボールは心地よく、諸手を挙げてそれを迎えようとする観客目掛けて舞い降りる。

 起死回生の同点スリーラン。甲子園を大歓声が覆う。360°総立ちのスタンドのパノラマが揺れていた。

 

 野村が一塁を見た。おそらくその眼は、抗議の怒りに満ち溢れていたのであろう、松中は震え上がってファーストミットを横に振った。

 歓喜の雄たけびを上げて景浦が野村の前を横切り、そしてまるで自分が打ったかのようにヘルメットを掲げて手を振り続ける藤村が続く。

 「ノム、わしやわしや!

 藤村が答え合わせをするかのように言った。

 

 カウントがツーワンでなければ、佐藤道はウエストしなかったかもしれない。ボールの握りがスライダーでなければ、もっと外へはずせたかもしれない。松中ともう少し練習を重ねていれば、声を間違えることはなかったかもしれない。野村の頭の中を、いくつもの ” If ” が行き交う。そして目の前を、万感の想いを胸に刻む今岡が通り過ぎていくのであった。

 

 なお、当サイト内において、『球界転生』 だけは、文章の転載をご遠慮ください。既に転載している場合は直ちに削除してください。他は好きにしていいです。

 ご協力ありがとうございます。

『球界転生』 #29

 アウトコース低めギリギリのボール、どちらにも取れたが球審のコールはストライクであった。野村はその瞬間、 ” ヨッシャーッ! ” と叫んでミットを突き上げた。バースはバットを放り投げて怒りを露わにした。一つ前の打席でも田淵が同じような外の低めをストライクと言われ、スタンカから見逃し三振を喫していた。バースが詰め寄るも球審は相手にしなかった。

 野村は最後の関門を脱したと思った。残りは四人。そのうち二人は景浦と藤村。日本プロ野球誕生から在籍する最古参のスター選手である。当時の野球と今の野球では打者のポイントが違う。時代とともに野球は進化し、それに合わせボールとバットの接点は年々少しづつ、捕手側へと寄って行った。その果てに今の野球がある。野村にはこの二人が和田、杉内を打てるとは思えなかった。つまりは安牌、となれば九回一死までは計算できる。

 杉内で三点のアドバンテージがあって、試合終了まで必要なアウトは実質二つ。野村は逸る気持ちを抑えると、ボールを両手でしごきながらマウンドに少し歩み寄り、ツーアウトと二本の指を高く立てて現状を確認させ、ボールを柔らかく和田に投げ返した。

 野村の気持ちは和田にも乗り移っていた。この回を投げ切れば、もうーつアウトを取ることができたならホークス勝利にほぼ当確が灯る。慎重に行けば必ず景浦は打ち取れる。和田は何度も慎重にと自分に言い聞かせた。

 野村はもう一度ホームの前で振り返ると、野手に向かって丁寧にとゼスチャーで示し、一塁ベンチの藤本と、そしてサードコーチャーの岡田を見た。そして代打はないなと確信し、ホームの後ろに回って胸を撫で下ろし、ついでとばかりに腰も下ろした。

 

 神妙な面持ちの景浦が打席に入る。ここまでの三打席、控えめに言っても打てそうな気配はない。その男が土壇場ではたしてどうするのか、ファンならずとも注目が集まるところであった。そしてその答えは出た。誰の目にも見える形で。

 1キロ、270匁のバットを軽々と振り回す男が、背中を曲げ、バットを寝かせグリップを二握り余せ打席に立っていた。八回裏二死ランナーなし、三点差のビハインド、その逆境の中、伝説の男はプライドを捨て現代野球に立ち向かう。はたしてその姿は、甲子園に詰め掛けた野球ファンにどのように映ったのであろうか。

 野村は逆に安心していた。ここに来て自分のバッティングを捨てたところでと。当り前の話である。和田にとって景浦とは初対決であり、その限りにおいてどんな打撃フォームで向かってこようとも、そこに大した意味はない。

 すでに肩も出来上がり、ブルペンで九回表の登板を待つだけとなった村山は、モニターに映る景浦の姿を見て祈らずにはおれなかった。どうか勝負の女神がいるのなら、少しで良い、力を貸して欲しいと。

 

 初球の縦のスライダーに、短く持った景浦のバットはあえなく空を切った。その様を間近にしたネクストに立つ藤村は、少しでも和田を正面で見据えようと、自分の居場所を示す白線をスパイクで掻き消しジリジリとホームに寄って行った。そして一時、二時、十二時、そこから二時と呟いた。同じように打席の景浦も、映像で和田の投球フォームを眺めながら掛布に言われたことを思い返し、頭の中で整理する。

 右肩を閉じ背番号を見せたまま和田の身体は、ー塁側に傾いて踏み込んでくる。そしてグラブを持った右腕を上げて抱える。そこから一転、真上から投げ下ろすオーバースローのように身体を真っ直ぐに立て直す。するとようやく右肩が開き、その奥から左腕が出てくる。しかしリリースはスリークォーターで、こちらが勝手に頭の中で描いた位置よりも低い。この錯覚に惑わされているうちにボールが手元まで来ている。

 つまり最初は身体の軸をサイドスローのように傾けているのに、腕を振る直前にはまるで真上から投げ下ろす本格派のように背筋を伸ばす。ならば上から来るのかと身構えると、左腕はスリークォーターの位置から現れのである。結果として、打者の眼には和田の腕の位置やリリースポイントが低く映る。対戦相手の思い込みを最大限利用したフォームと言えないか。

 掛布が繰り返した時計盤と針に基づいておさらいするなら、和田の身体の軸がー時の向きに傾いて打者に向かってくる。そこにグラブを持った右腕が二時を指して伸びる。すると和田は身体の軸を十二時に立て直す、にもかかわらず左腕は一時ではなく二時を指して出てきてボールをリリースする。

 ” 一時、二時、十二時、そこから二時

 和田の一連のフォームに惑わされないためには、シンプルにグラブを持つ右腕を上げる位置と同じところからボールは来るのだと待つべきかもしれない。なかなか開いてくれない右肩は意識せず、あくまでボールの出どころ、その位置と角度だけを見据えるために。

 景浦は何度でも呟く。

 ” 一時、二時、十二時、そこから二時

 

 和田の二球目はフォーク。掛布の言うように二時から腕が出てくることを景浦は確認してバットを振った。捉えたと思ったが、バットの下っ面でこすって、ボールはバックネットに転がった。

 フォームに惑わされることはないと思った。ならば必要なものは何か? 景浦は思い切ってバッターボックスの真ん中に立った。これなら落ちっ端や曲がりっ端を叩けるかもしれないと。

 野村はそれに目を止めると、和田にいったんプレートを外させた。

 ” 追い込まれての変化球待ちかいな・・・・。ならばストレートで胸元を攻めたくなるが、それを誘っているようにでもある” 。

 迷った野村はー球外に直球を投げさせ様子を見た。景浦はボールの出所だけを確認すると、明らかな外の球にピクリともしなかった。

 ” やはり変化球待ち、となると攻めるべくは胸元インコース” 。

 和田は肯き、ためらうことなくインハイを狙った。

 景浦は来たと思って振り始めた。インコース苦しいところであったが、短く持ったグリップは思いのほかスムーズに最短距離でボールを迎えに行く。それでも打席の位置を前に移した分喰い込まれた。1キロを超える重いバットの根元がボールを押し返す。ボールがめり込むような嫌な音を立て、同時にバットの破片がわずかに舞った。

 和田は折ったと思ったが、打球は綺麗にセンター前へと運ばれていく。そして新井の前に落ちた。クリーンヒットであった。

おっしゃーっ!

景浦の野太い声がスタンドからもはっきり聞こえた。一塁ベンチの全員が立ち上がり拳を突き上げた。

 お荷物にも思えた景浦が打ったことで、スタンドはこれまでと違う盛り上がりを示しはじめた。勝負を度外視するものがそこにあったのかもしれない。ブルペンの村山も自然と手を打っていることに後から気付いた。

 

 

 

 藤村が ” 失礼するで ” と打席に入ると、先輩の景浦を真似て打席の中央に軸足を据えた。そして物干しざおを、これまた景浦がそうしたように二握り余し右肩に据え、若干背中を曲げて構えた。しかしアゴは出たままだった。

  野村は再び変化球待ちなのか、それともストレートを誘っているのか思いあぐねていた。初球から振ってくる、そこは間違いない。ならばとウイニングショットでもあるフォークをボールが無難。外角低目にとサインを出す。和田は落ち着いてグラブと左手を胸の前で重ね、一塁の景浦を目で牽制した。

 

 ” 一時、二時、十二時、そこから二時

 

 藤村も呪文のように何度も繰り返していた。

 和田がセットから右脚を上げる。藤村は目の前を時計盤と針だけにして、ボールの出所その一点に絞る。

 

 リリースポイントは二時、その通りの位置から白球は来た。

 初球を見送られた場合、結果ボールで入ることになるのを嫌う投手独自の微妙な心理が、和田の手元をわずかだが狂わせた。フォークボールがやや甘めにアウトコースに入ってくる。

 藤村はフォークの落ちっ端めがけてバットを振った。ストレート軌道で来たボールが、失速気味に落ちていく。思ったよりも来なかったが、軸脚を前に移した分37インチのその先がなんとかボールを捉えた。次の瞬間、物干しざおが根元からやや斜めに真っ二つに裂け折れ、そして破片が四方八方に飛び散った。

 折れたヘッドが、まるで痛烈なセカンドゴロのように回転しながら蔭山の前に転がっていく。ボールは・・・・と、一瞬誰もが見失う。どうやら少し遅れてフラフラとライトの前へ飛んでいた。蔭山はバットを避けながら振り返りライトを指差した。そこには前進を繰り返す門田の姿があった。捕れると思ったボールを浜風が押し戻す。迂闊だったと蔭山もそこから全力でボールを追った。一瞬、その蔭山の姿が目に入りブレーキを掛けた門田の足下に、ボールはポトリと落ちた。二死だけに景浦は当然のように三塁を落し入れていた。

 

 再びスタンドが湧いた。これまでまったく機能しなかったタイガース草創期の主砲コンビのシブい連打に、内容なんかどうでもええ、盛り上がれればそれで上等なんやと客席は揺れる。

 和田は掛布、バースを手玉に取り、さらに270匁と37インチという二本の伝説のバットをへし折ったが、結果としてピンチを招くこととなった。

 すかさず野村がマウンドに上がる。心配顔の蔭山や広瀬もやってくる。野村はミットで顔を覆うと、目だけをギョロつかせバックスクリーンを見ながら蔭山に話しかけた。

 和田は決して今岡との相性は悪くはない。しかし自分が解説を担当した03年のホークスと阪神日本シリーズの初戦の初回、先頭の今岡は和田から苦もなく完壁なヒットを打って見せたことがあった。おそらくあちらも苦手意識はない。ここは佐藤道に変えるのが得策である。

 なにより自分は二人とも監督として直に見ている。二人の実力を知り尽くし、力関係も判る。佐藤道がリード通り投げれば、今岡に打たれることはない。絶対に抑えて見せる。佐藤道へのスイッチを鶴岡さんにお願いできないか。野村はミット越しにブツブツといつもの調子で呟く。一通り耳を傾け肯きながら、蔭山はどう鶴岡さんに伝えようかと考え始めた。

 野村と蔭山がマウンド上で何を話しているかなど、鶴岡はお見通しである。それでも動こうとしないのは、あくまで和田続投を示唆しているからなのか、それとも二人の動きを見極めようというのか。少なくとも野村にも蔭山にも、鶴岡の頭の中はまったく判らなかった。

 マウンドの輪の中に主審も加わり、プレーを促すと踵を返す。意を決した蔭山が振り返りマウンドを二、三歩降り鶴岡を伺う。鶴岡は立ち上がると首をゆっくり動かし、眼で主審を追えと合図を送った。蔭山は頭を下げるとホームへ向かう主審の背中に投手交代を告げた。そして足早にマウンドへ戻ると、律儀にも後輩でもある和田に労いの言葉を掛けるのであった。

 

 

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『球界転生』 #28

 掛布の打球は力のないセンターフライとなって新井のグラブに収まった。最悪ライト前、ホークスのバッテリーも、そして掛布さえ同じ覚悟のインコースストレートであった。しかし打球はそのライトにすら飛ばなかった。

 狙った球が来たのに打ち損じた。バットマンとしての誇りが粉々になった気がした。できれば後二、いや三打席欲しいと掛布は素直に思った。

 差し込まれたことは理解している。しかし和田のストレートは140㌔そこそこ。特別な伸びを感じるわけでもない。それがなぜこれほど打者を押し込むのか。すべては和田の特殊な投球フォームと、ボールの出所にあるのでは。そう思ってから打ち取られた悔しさがやって来た。

 

 掛布は野村の言った、 ” 初見ではONであっても ” 、というセリフを反芻していた。ベンチを出て球審に向かう藤本と顔があった。掛布はまともに藤本を見れない。もらった指示を活かせなかった自分が情けなかった。すれ違いざま、藤本は掛布のケツを叩き、 ” 打てても三割や ” そう耳元で囁いた。藤本は淡々と球審に藤川の名を告げボールを受け取ると、一度それを右手で捻って目の位置の高さまで浮かせて、そして左の手のひらで受けてからマウンドを登っていく。

 岡田はその藤本の仕草に変化を感じ取った。七回のチャンスも潰したが、和田を引っ張り出した、つまり八回和田、九回杉内、この勝利の方程式を形の上では崩したことに満足しているのかもしれない。もしくは蔭山と野村がマウンドから鶴岡に対してシグナルを送り、鶴岡がどうやら二人の意を汲んだ、そこに意義を見出したのかもしれない。いずれにしても試合の流れは少しだが変わった。今度こそこちらへ向かってくる番だ。

 岡田は駆け足でベンチに戻ると早速、マウンドに集まった時の蔭山と野村の動きをもう一度映像で確認しようとPCを操作した。するとそこへ掛布がやって来て、和田のバックネット裏からの投球フォームを見れないかと言う。岡田はどうぞとPCを譲り、たった今終わったばかりの掛布との対戦シーンを再生してみせた。掛布はそれを食入る様に見ていた。

 肩が開かず腕が隠れてなかなか出てこない球持ちの良い投手というのはままいる。和田の場合、画面で見る限り腕の位置も決して低いわけではなく、普通のスリークォーターでむしろ高い方であり、だからこそしっかりボールを叩いてくる。なのになぜリリースが低く見えるのか・・・・。掛布は一端諦めてグラブを持ってグラウンドへと急いだ。

 

 甲子園にはマウンドに上がる際の球児のテーマソングが流れる。その歌詞を味わうように、球児はゆっくりとマウンドへ向かう。「奇跡のゴールを信じて」と歌うその曲を聴きながら、岡田はもう一度勝利を信じる気分になっていた。

 

 球児は一番から始まるホークスの八回の攻撃をすべてストレートで捻じ伏せた。特に新井、松中にインハイのストレートしか投げなかった。ガンの表示は150㌔中盤であったが、ストレートの回転、伸び、そして角度。左投手の右打者膝元へのストレートをクロスファイアーと表現されることがあるが、藤川の左打者の胸元の直球も、間違いなくクロスファイアー、つまり火の玉であった。

 

 ものの五分で終わったホークスの攻撃、その間にも三塁ベンチの中ではいろんなことが起こっていた。打席に立った選手にも、それが伝わって淡白になった面はなかったか。岡田は攻守交代を待ち詫びていた高校球児の控え選手のように、ダッシュで三塁コーチスボックスへと向かう。何が起こったのかを確かめるために。

 途中、憮然とした表情を浮かべ、三塁ベンチ前にいた城島の姿が目に留まった。岡田は足を緩め歩み寄り、 ” なんかあったんか? ” と訊ねてみた。すると城島は大したことじゃないです、とだけ答え手にしたミットを叩きその場に立ち尽くす。三塁ベンチの中を伺うと野村と蔭山の背中が見える。鶴岡はその奥にいるに違いない。

 

 ホークスは八回の表、二死から松中が打席に向かった際、和田と城島が連れ立ってベンチから出た。肩慣らしをを始めるためだ。回跨ぎの和田にとって必要なルーチンである。

 そして松中が球児のストレートに屈しセカンドフライに倒れると、当然のように二人してグランドに向かおうとした。マウンドに上がる和田、そして城島はネクストに立った四番野村がプロテクターを身に纏うまでの間、投球の相手をするために。だがそれを広瀬が止めた。振り返った和田は広瀬の手招きに応じてベンチへ戻ろうとする。その奇異な光景が岡田の目に留まり、三塁コーチャーボックスへと走らせたのであった。

 

 待ちぼうけを喰っている城島に、クラブを持ってショートに向かう広瀬が何やら話しかける。しばらく立ち話が続き、渋々一人無人のダートサークルにミットを持ったまま歩いて行く。

 三塁ベンチに目をやると、依然蔭山と野村の背中だけがそこにある。野村は時折しゃがんでレガースをつけている。鶴岡の姿はやはり見えない。やりとりのメインは蔭山と鶴岡で間違いない。

 一塁側では藤本が立ち上がって岡田を見ている。岡田は背中にその視線を感じたのか振り返ると、胸の Tigers の六文字の中の ” i ” を触った。

 " incident " ・・・・。

 「ついに動くで。

 藤本は呟いた。

 

 一塁ベンチの奥では掛布が田淵やバース、景浦、藤村を集めて端末を見せながら、一時だ二時だ十二時だと説明を繰り返している。画面に映っているのは投球する和田である。

 一方、三塁ベンチからは野村と蔭山が出てくる。蔭山は一目散にグラウンドへ走った。 野村はすぐに立ち止まってプロテクターを肩にすると、振り返って人を呼ぶ。 するとひと際大柄の斉藤が出てきて後ろに回ってストラップ紐を結んでやる。 そしてその二人の背後からようやく鶴岡の姿が現れた。球審を手招きすると言葉を掛ける。投手交代のようだ。左の和田に右の田淵、この組み合わせを嫌ったようであった。誰が嫌ったのか、少なくとも鶴岡ではなさそうであった。

 しばらくしてアナウンスが響いた。

 「ピッチャー和田に代わって、スタンカ。

 ウグイスがそう告げ、場内にどよめきが起こる。

 「ピッチャーの和田は、そのまま入りDH。

 次の瞬間、 ” ワンポイントや! ” 、スタンドで監督気取りのファンたちが、我先にと物知り顔で口を開き肯き合った。

 

 「野村の奴、ついに城島を切りおったで。

 藤本は右手で口元を隠して呟いた。

 「あれ、スタンカか。スイマセン・・・・。

 ベンチの奥で和田の投球フォームを解説していた掛布がズッコケた仕草をして田淵に謝る。気にするなとバットを担ぐと、田淵はゆったりとした足取りで打席に向かった。



 

 マウンドに上がった196cmのスタンカが、188cmの田淵を見下ろしている。この甲子園で阪神には一点もやらない、当然次のバースになれば、和田が再びマウンドへ上がる。付け入る隙など許さない。完膚なきまでに叩きのめす、それがこの継投の意味するところである。

 「鶴岡の野球ではないで。

 藤本が独り言をいう。

 岡田は ” 誰の野球ですか? ” と口を挟もうとしたが、野暮な質問するなと諫められそうなので黙っている。

 「欲張ったら女神はそっぽ向くんとちゃうか。なぁ、岡田よ。

 藤本の方から話しかけてきた。雰囲気が出てきたぞと岡田は思った。

 「ああ、流れはうちに来る、絶対に。

 藤本がこの試合初めてニタリと笑った。

 

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