今年の巨人のドラフトは評価に値すると素直に思っている。高校生を指名しなかったことで批判に晒されているが、今年の高校生レベルなら、という割り切りがあったのであろう。
実際、世代トップは下級生の頃から四天王と持て囃され、それが裏目に出たようだ。四人のうち一人は育成指名、一人は指名漏れ、結局一位は前田のみ。もっとも騒がれた佐々木に至っては、アメリカ留学を打ち出し志望届すら出さない有様。その背景には世間を満足させる成績を上げられなかったという、ある種の後ろめたさがあったと察する。
世代ごと総崩れとは言わないが、コロナ禍もあって描いていたような成長曲線に至らない選手が多かった。つまり巨人の高校生指名ゼロは、ある意味想定内なのである。
それでも今回の本指名選手の平均年齢が24歳にも達するとして、問題視する意見は多い。育成を放棄したのかという声も上がる。そこはもっともかもしれない。
選手の育成サイクルは、個人的に三年とみている。24歳というのは、高卒後にそのサイクルが二回転している年回りに当たる。
イメージとしては、骨年齢が成人に達し身長の伸びが止まる16、7歳前後で描く成長サイクルの円の弧が最も大きくなる。そこからサイクルが回る度に円は小さくなっていく。それだけに旬を過ぎた選手の指名には慎重となる。
つまり高校で一回転、その後大学社会人で二回転、計三度の成長サイクルをすでに回し終えた選手ばかりを今更指名してどうするのか、という理屈。巨人の今回の指名に疑間符がつきまとうのも致し方ない話ではある。
これだけ指名選手の平均年齢が高いというのは、長いドラフト史の中でも初めてかもしれない。過去を振り返ると、アホの極みと嘲笑されたわが阪神の1995年のドラフトぐらいか。あれはある意味伝説であった。だがあれでも指名選手の平均年齢は23歳である。
ここで少し脇道に逸れ、暗黒史の中でも一際黒光りするあのドラフトについてご紹介したい。
指名した四人の高齢社会人選手が、誰一人として戦力にならなかったなんて序の口。にもかかわらず後にスカウトが、もう少しコーチにはしっかりと指導してもらいたかった、と言い出すに及んでは失笑というか、開いた口がというか、つまりはこれこそが暗黒臭なのである。
あのドラフトの翌春のキャンプ、指名された新人船木、中ノ瀬、林の三投手は一軍キャンプに揃って抜擢された。その中でも特に林の投球を、当時ABCの解説者であった稲尾が激賞。必ずや戦力になると関西メディア各方面に喧伝・・・・。
もちろん誰が見てもというか、テレビ越しにわれわれが眺めても、あんなもん良いわけないやろ、というのは明白で、実際その通りにまったく役に立たず、三位で指名されたというのにたった二年で解雇。
今もってあの時の稲尾の見立ては謎なのだが、私なりに深読みするなら、林を担当したスカウトが人の好い稲尾に、
「サイちゃん、キャンプでは新人の林を誉めて欲しいんだよね、ちょっと自信喪失気味でさ。神様と言われた大投手に褒めてもらえれば、本人励みになると思うんだよ。」
みたいなおねだりが、人知れず裏で執り行われていたと思う。それぐらい稲尾が林を一方的に誉めたのは不自然であった。
林本人を励ますのではなく、スカウトとしての自分の無能ぶりを帳消しにする意図であったことは言うまでもない。当時のスカウトの糞っぷりと、処世術の狡猾さは見事でもあった。
因みに指名時船木は高卒四年目、中ノ瀬、林は五年目の社会人。つまりプロ入り解禁から指名を見送られ続けた投手ばかり。四位の曽我部は名古屋学院大卒業時に、社会人野球3チームのセレクションを受けて、いずれも不合格という猛者であった。
言うまでもなく1995年とは、わが阪神が暗黒期真っ只中。補強ポイントなぞはその全てであったというのに、あの四人を指名してドラフトを切り上げたのである。
振り返るにあの年のドラフト中位以降の選手としては、清水(東洋大→巨人)、横山(横浜→横浜)、日高(九州国際大付→檻)、武藤(創価大→近鉄)、石井(東京学館→ヤクルト)、佐久本(大和銀行→ダイエー)、鶴岡(神港学園→横浜)、益田(龍谷大→中日)、など結果論ではあるが、多肢多彩ではないまでも、まったくいなかったわけではない。
しかもその後、上にあげた日高、佐久本、鶴岡、それ以外にも口ッテの四位指名であった早川、近鉄の五位指名の平下をそれぞれトレードなどで獲得する(日高に至ってはFAで)という愚行に及んでいる。つまりあの年指名できたのにみすみす見逃したにも関わらず、結局はそれらの選手たちの手を借り穴を埋めるという。確かに当時の阪神の選手層は薄かったが、おまえらに意地はないのかと。ご丁寧にも恥の上塗りというか、スカウト、編成の無能さを惜しみもなく曝け出してくれるのであった。まったく業が深い。
あの指名直後、当時からひとかどならぬ阪神ファンを自認していた私でも、こんなにスカウトがクズ野郎ばかりで編成が滅茶苦茶な球団には愛想尽きたわ、そう一瞬覚悟を決めたほどであった。
もうスカウトは俺がする! 私がアマチュア野球観戦にのめり込むきっかけを作ってくれたドラフトでもあった。そういう意味では感謝している。かようにドラフトとは球団の生殺与奪を握っている。チームを生かすも殺すもスカウト次第なのである。
前振りが長くなって恐縮である。かようにスカウトや編成の裏も表も、酸いも甘いも長年眺め倒してきたこの私が、今回の巨人のドラフトについてあえて言おう、認めると。
まず、阿部新監督が二軍監督を経験していることが大きい。新人の秋広をマンツーマンで指導していた光景などは記憶に新しい。他にも下で目を掛ける選手は多いと見る。つまり、彼等に勝負の年を与えることを意図したのではなかろうか。恐らく来年結果を出さなかった場合、オフには情け無用で大ナタが振るわれるのであろう。
高校生を本指名すると、どうしても育成の観点から三軍といえどもスタメンで優先的に起用する。その流れから、イースタンでも見てみたいという運びにもなる。となれば周りからすると、自分よりも明らかに実力のない選手が経験を積ませるという名目だけで頭から使われることとなる。それを快く思えというのは無茶だろう。
プロとは個人事業主の集まり。つまりは商売の邪魔なのだ。しかしてそれはファームにおける日常的な風景でもある。だが来年の巨人に限るとそれはない。
巨人は去年までの三年で計31名の育成選手を指名した。そのうち高卒は18名。来春、邪魔はしない、だからおまえら死ぬ気で野球をやれ! あの指名を通じて、そんなメッセージを送ったのであろう。
個々の選手について申し上げれば、ニ位の森田は今回の巨人ドラフトの象徴である。一位の西舘以上に注目している。技術的な話はあえてしない。報知新聞や読売の息のかかったメディアが誉めそやすであろうから、それ読んでくださいな。ただ一言だけ、落ちるボールをもう一種類。フォークを何とか物にして欲しい。それを条件とするが、不肖この私も来年の新人王として彼の名を挙げたい。二桁勝ち、規定回数をクリアするであろう。元々才能のある投手であることは間違いない。高校時代は世代NO.1左腕であった。
九年前のドラフト、森田の進路に注目は集まったが当初から進学希望であった。明治、中央との争いを法政が完勝。決め手は当時のOB会長の山中氏の存在。翌春のシーズン、いきなり開幕投手を務める。がっ、好事魔多し、まずは怪我。そしてその後起こる野球部内のゴタゴタの煽りをまともに受けることとなる。
2013年春、山中氏ら主流派がクーデターを起こし、いったん法大野球部内の派閥抗争に勝利を収めた。しかし、サンデーモーニングでお馴染みの田中優子が学長に就任した翌年以降、反主流派が徐々に水面下で巻き返しを画策。山中氏や山本浩二は名誉棄損で告訴され、訴え出た張本人である金光元監督が2017年、OB会副会長に就任し復権。抗争は反主流派の逆転勝利で幕を閉じた。三年前にこのあたりで書きましたわ。
正直、六大学や法大には関りも義理もないが、このゴタゴタを野次馬的に眺めていて感じたのは、山中氏の薫陶を受けて法大に入った森田が気の毒であったということ。
結局、森田は冷や飯を食い大した実績もないまま卒業し、Honda技研鈴鹿に入社。あれから五年、臥薪嘗胆に努め遂にこの春、回り道の果てなのか、満を持したのかは定かではないが復活を遂げた。都市対抗でも活躍し、見事に今回の二位指名を勝ち取った。めでたしめでたし。
贔屓目かもしれないが、武内に劣る部分はないと映った。同郷でもある正力松太郎先生が創り上げた一世一代の最高傑作、大巨人軍を舞台にひと暴れしてもらいたいものである。
二位の西舘はすでに取り上げた。
まぁ実力があるのは理解しているが、正直良いイメージはない。しかし、である。ドラ1という肩書以外は何かと地味で、注目を浴びると潰れそうな西舘なだけに、五歳年上の森田の存在は有難い。
キャンプインと同時に、上手い具合にオールドルーキー森田が活躍し注目を集めれば、水を得た魚のように頑張るのではないか。あのタメのないクイック投法を、巨人首脳陣がどのようにいじるのかにも注目している。
三位の佐々木は大学時代、打席で左の肘と手首の使い方に癖があり、バットが真っすぐポイントまで出ない傾向にあった。果たしてそこは治ったのか? 私が見る限り、若干残ってはいるが右腕主導でフォローが大きくなり目立たなくなっているようだ。
そもそも巨人の二軍、三軍は、日立とは何度も試合を重ねている。直接しっかりと佐々木の成長を観察し、あれこれ試し、反応を見極めたうえでの指名なのだろう。私ごときが口を挟む余地はない。
センター丸からレギュラーを奪うのではなく、サブとして少しでもその首筋を寒からしめる存在感を示せるか。何かと悠然としがちな口ートルたちに、あらためて奮起を促す呼び水としての期待がかかる。
それは四位の泉口も同じである。中川吉川、門脇からレギュラーを奪うのは正直無理。チームの底上げではなく、悪い言い方かもしれないが咬ませ犬としての役割を担えるかが鍵となろう。そのためにもキャンプでは初日からアピールし、必ず一軍切符を勝ち取らねばならない。
こういう存在は定期的に必要である。例えばうちも秋のキャンプで、外野の小野寺や野口に三塁を守らせ鍛えている。それが何を意図しているのかは明白。更に言えば既存の選手をそこに宛がうよりも、新人の方が効果的かもしれない。
五位の又木も同様に一軍で開幕を迎えなければ意味のない投手。役どころは左のワンポイント。一応、ボールを眺める限りその力はある。問題は制球。それもヒリヒリする場面に平常心でマウンドに立ちストライクを通せるか。ハードルは決して低くはない。
フォーム的にはテイクバックの際の左肘の位置が気になる。少し低い。球は暴れるタイプと見る。だが、今年の成績を見るとコントロールは安定しているようだ。撫で肩でもあり、そこは大丈夫なのであろう。
左の中継ぎは巨人に不足しているパーツであるだけに、又木を五位まで遊ばせたのには、よほど他球団の動きを読めていたということか。私なら我慢できず泉口のところで指名していたと思う。あの段階で他に目ぼしい左腕は残っていなかった。腹の座った指名と感じた。
今年の巨人の指名をありと感じるのは、スカウトが文字通り退路を断ってこの五人を指名したからだ。まぁ社会人野球オタクの阿部の親爺の入れ知恵も少しはあったかもしれないが、ここまで徹底するのは見事。
極論になるが、開幕にこの五人が一軍に名を連ねていなければ、その段階で指名は失敗。恐らくは、今から辞表を書くぐらいの覚悟はしているのであろう。四月はあっという間にやってくる。
これまで何十年もドラフトを眺め続けて来たが、言い訳枠や最初から保険を掛けたような指名を数多く見せられた。高校生を指名しておいて来年から勝負だなんて言えたものではないが、中には育成期間を人質に、判らない奴には判らんでもいいよと居直るような指名もあった。そんな場合、たいがいが失敗に終わっている。もしくはコーチに責任を擦り付けるのがオチであった。
スカウトが所属する編成は、ドラフトでの指名を通じて結果を出すことこそが求められている。だが同時に組織として、現体制を守ることも一つの使命である。それをしなければ、スカウトを束ねる求心力は失われてしまう。ただでさえ、てんでバラバラでそれぞれが個々で勝手に動いている集団。最後は俺が責任を負うから、君たちは自信を持って日々の活動に集中してくれ、そうスカウトに編成部長が言えるかどうか、結局はそこだ。
しかし現体制を守ることは、得てしてチームを強くするという方向性と重ならないことが多い。いわゆる弱いチームあるある。そういうチームの編成やスカウトたちのやり口というのは、適度に高校生を指名して思わせぶりな将来性を盾に延命を図り、併せて適度に社会人を指名し、シーズンで残した僅かな数字を根拠にこれまた延命を企てる。やってることは保身だけだろ、ファンにそう見透かされるような指名に終始する。
それだけにすべて22歳以上の選手を揃えてみせた、今回の巨人の指名から保険を掛ける気配は感じられない。その心意気を買うのである。
恐らく、おしゃべりですぐ手の内を明かしたがる水野にそんな器があるとは思えない。背広組によほど肝っ玉の太いのがいるのであろう。まぁ結果が出なけりゃ、水野に詰め腹斬らせりゃいいかな。
とにかくまずは二月、プロの阪神ファンとしても、巨人のキャンプインが楽しみである。