前回申し上げた通り、阪神の連覇について書こうと思っていました。がっ、友人から今の時期はドラフトについてを書いておけ、というアドバイスをいただき、有難く受け止めそうすることにいたします。
確かに、日本一の騒動が落ち着くまで、世間様は提灯記事やご祝儀スピーチやらラブレターを求めているのでしょうから、卓袱台をひっくり返したり、冷や水を浴びせるようなマネはやめておきます。
それに週刊ベースボールなんかも、 ドラフトを特集すると売り上げが全然違うらしいですね。実際、すでに来期の先取り特集号も出ています。そういえば野球太郎の価格もやけに強気な設定。共にどれぐらいの発行部数なのか気になるところですが、 ドラフトに需要があるというのは間違いないようです。
というわけで阪神の連覇に向けて野手編は、そのうちということでご理解願います。
ドラフトが終わって早三週間経ちます。毎年、冷静に振り返られるようになってから考えることがある。ところがどうも今年は答えが出そうにはない、そんな風に躊躇っている。それは、
今年のドラフトに、勝者はいたのだろうか・・・・?
ということ。
もう十年以上前の話です。当時は今よりも元気で時間もあったので、暇さえあればアマ野球観戦をしていた。ただ眺めてるだけでは勿体ないので、顔を知っているスカウトがいれば片っ端から声を掛けたもんです、ええ。
邪魔するな、そんな風に睨んでくる方から気さくに応じてくださる方まで、いろいろおられました。そこで話に乗ってくださったあるスカウトが、ぼそっと呟いた一言が未だに忘れられない。
「クジに負けたら、そのドラフトは上手くいくことはない・・・・。」
私はどう反応していいか判らず、”そうなんですね、なるほど” 、とあっさりその言葉を流してそれっきりにしてしまった。
今思い返すと、ある意味、そこに正しさがある、そんな風に感じ入ります。
ある意味、と書いたのは、やはりアマ野球を直接眺めていると、あの選手は良いな、とか、あの選手は上で伸びるタイプ、とか、可能性のある選手がたくさんいることを思い知るから。特に遠征で地方に脚を伸ばしたりすると、旅情も手伝うのでしょうか、その傾向は強まります。
なので、たとえクジで負けても、良い選手は他にもいるよ、安直ですがそう思えてなりません。先のスカウトの一言が、言い訳まじりに感じるほどに。
しかし、である。ドラフトが近づくとそうではなくなってくる。特に当日を迎え、指名の結果が出た直後などは、あの言葉の重みをあらためて感じてしまう。もちろん、たとえクジで敗れようとも、外れ一位で福を招くケースは枚挙にいとまがありません。山田哲人や山﨑康晃、村上、宮城、うちの場合も近本、森下はまさにそれに当たる。
それでも、である。ドラフト中継を食い入るように観ていると、突然あの一言がまるで真理のように甦る。そしてこう思う、やはりクジの存在は大きいと。
ドラフトは出会いなのだと思えば、クジに負けようともきっと前向きに割り切れるのでしょう。逆に理詰めでドラフトを組み立てようとすると、クジに負けた段階ですべてが破綻する、そういうことなのかもしれない。
他にも変な喩えかもしれませんが、 ドラフトを見合い結婚か、恋愛結婚かとすればどうか? 後者の場合、クジがあること自体が許されないであろう。つまり、スカウトが一年かけて必死に選手を追い求めるが故に、選手に惚れてしまう。そこから逆算すると、あの時スカウトが呟いた言葉の持つ意味に近づけるのではないか。
つまり理詰めで行こうが情熱に任せようが、やはりクジとは邪魔なものであり、故に絶対に負けられない、という結論に行きつく。
あえてパラフレーズするなら、理と情、どちらが先に来ようとも、ドラフトがスカウトにとって一年の仕事が形となる唯一無二の場。そうである以上、思い描いたドラフトになることを願わない方が無茶であろう。無論プランBもCも用意はしているが、本音としては、こいつなのだと推した逸材と同等の選手などいるはずない。逆になんぼでもいます、という方が怪しい。そう思えば思うほど、クジの存在が不確定要素として悩ましくなる、ということか。
恐らくそこが、野球ファンだけではなくライトなスポーツファンにも伝わるからこそ、 ドラフトに世間の注目が集まるのかもしれませんね。
でっ、今回のドラフトの話になるのですが、ご存じのように七度もクジが行われました。結果、口ッテの三度を頭に、ヤクルト、楽天、日ハムが二度ずつ、中日、SBが一度、数えてみると実に11。クジが繰り返される度に、それに敗れたチームが量産されていく。その有様を眺めながらこう確信した、今年のドラフトに勝者などいないと。
もちろんどのチームも、あるゆる事態を想定し、事前にシミュレーションをしていたとは思う。だが今回の七度の抽選を予期できたか? いやいや、だからこそ単純に、クジに勝ったチームが勝者なのだ、という向きもあるのだろう。しかし私にはそう思えない。なぜならばクジに勝ったチームの顔ぶれを眺めて欲しい。
まず武内を三球団競合の末に手に入れた西武は、自分が子供の頃から知っている選手だからと一位に繰り上げ指名するような無責任男がGMを務めており、西舘の当たりクジを引いた巨人は、あの水野がスカウト部長という力オス球団。最大の目玉の指名権を得た広島は、スカウト会議にオーナーが当たり前のように顔を出し、金を払うんはワシじゃと決定権を手放さない。渡会を手繰り寄せた強運のDeNAに至っては、野球のルールもよく知らないような背広組が、スカウトの行動を管理しいちいち口を挟むので、その度にやる気を失う有様。どこも問題を抱えている。
競合を避けた阪神、オリックスも似たり寄ったり。今回の1位と目玉選手との実力の差は明白。しかも阪神はどんでんが隙あらば、俺の友達が勧めるんやが何とかならんかとおねだり。オリックスも一見は女性スカウトを入れてみたり、実験的で開かれたスカウト陣のように見えて、実は元を二位で指名したり、謎の高齢御曹司を育成で獲ったりと問題も多い。むしろ堅実でまともなのは、今回クジでことごとく討ち死にしたチームの方ではないのか。
言うまでもなくどんなにクジが繰り返されようと、一位で消える選手は12名。である以上、想定内の下に二位以降の指名に移れたはず。しかし、である。半分が一巡目で意図した選手を獲れなかった余波は、揺り戻しのようにその後の指名に影響を及ぼす。今回、各球団の事前の皮算用はほぼご破算になったのではなかろうか。
以上が今年のドラフトに勝者がいない理由である。実際、顔ぶれを眺めていても、これは上手くやった、というチームは見当たらない。反面、 ドツボに嵌った、というチームもほぼない。これはスカウトの能力が平準化してきたことを示しているのか? これだけ情報が溢れそれを整理する手法も身近にあると、独自の動きをするスカウティングも、自ずと淘汰されていくのであろう。
そんな中、キラリと光る指名をしたと個人的に感じた、楽天、巨人の指名について明日以降で取り上げたいと思います。