西武は今年もクジに勝利し武内を射止めた。常にクジに勝っているわけではないが、三球団以上の大勝負に強い印象がある。あれこれ裏から手を回すことばかりが得意であったこの球団が、依然クジ運に恵まれたままというのはどうなのか。一方でクジを外し続けるような球団や監督は多い。この矛盾・・・・。
いい加減バチが当たれよ、そう思う方も多いのではないか。もしこのあたりについて、私を納得させられるような言説があればお聞かせ願いたいものだ。
大向こうを唸らせるような指名、それはすなわち西武のドラフトであった。最近は減ったが、今回は久方ぶりにそれがあったような気がする。
村田は超大型の強打者という噂が都市伝説化していた地方大学の雄。いかにも西武らしいお家芸ともいえる指名。
ひと昔前なら指名と同時に、”えーっ! 誰それ?” となり、196cmのサイズを聞いてさらに大騒ぎ。根本が仕切った頃の西武のドラフトと、それをめぐる世間の反応はいつもそんな感じであった。しかし今となっては、あぁ、西武がやりそうな指名だね、で終わってしまった。
実際、村田の在籍する皇学館大には、 ドラフト当日、三重のローカル局だけではなく、東京のキー局が、さぁー来いとばかりにスタンバイ。指名を今か今かと待ちわびる。村田と監督、部長の三人は、今回の候補者の中で誰よりも眩い照明を、しかも開始から六巡目が終わる七時前まで、二時間以上も浴びっぱなし。村田君、たぶん視力落ちたと思うわ・・・・。
時代が変わったとか、情報化社会の行きつく先だとか、確かにその通りなのだけど、プ口野球の楽しみ方がこれほど変わるのかと。 ドラフト会議の存在について、今回ばかりはいろいろと考えさせられた。未だ見ぬ怪物を世間が認知するタイミングが、シーズン開幕から、キャンプ初日 → 入団会見 → ドラフト → ドラフト前へとどんどん手前になって来ている。王道の高校野球の星についても、甲子園で発見するものではなく、地方予選が全試合配信されるようになった以上、先回りのレースは既に始まっているのかもしれない。
まぁ考えてみればスカウトが漫画になって脚光を浴び、 ドラマ化までされている以上、表の世界と地繋ぎになり、裏も表もなくなったということなのだろう。ただこういう本来アンダーグラウンドな世界のものに対して、定期的に表側からチェックを入れるというのはよくあることだ。古くは「あなた買います」が映画化されたのが1956年、もう七十年近くも前。であるだけに逆に、なぜこうも身近になるまでに時間が必要だったのかと、四十年以上前に、学生服にラジオを忍ばせ、授業中にラジオ関東のドラフト中継を聴いていた私の頭の中は混乱するのである。
プ口野球の裏側であった部分が表の世界として扱われる、そこまでは想定内である。だが、その中でも下位指名のキワモノ的な村田にまでスポットライトが直撃する、という点が理解できない。本来そこはオタクの領域なのに、ということである。
”娯楽はプ口野球しかなかった”、昭和を語る上でよく聞くフレーズである。そうまで言われた1960年代、こういう話があった。
ドラフトの翌朝、当時松下電器の社員であった福本が、スポーツ新聞を読んでいる先輩に、
「なんかおもろい記事おまっか?」
「おまえ阪急に指名されてるで!」
これで初めて知ったという。
また当時は、たとえドラフト一位で指名されても、拒否する選手が続出。それは巨人であってすらも同様。70年代に入ってさえその半ばで、二年連続振られた阪神などは、その後もしばらくドラフトではスター選手を指名するより、確実に入団してもらえる選手を獲れ、がお約束であった。
それが今や、独立リーグで苦労してでもプロを目指し、その末の育成指名に随喜の涙を浮かべる選手もいる。時代が変わったとつくづく感じ入るのである。
そして何より今回、 ドラフト会議のワイドショー化がほぼ完成を見た。視聴率には信ぴょう性を感じないが、関東でもそこそこの数字を取り、地方では20%を超える地域もあったのだとか。野球がこの国で最も輝いたのは巨人のV9時代だというが、当時のコアなファンがどれだけドラフトの存在について識り、 そして候補者やそこから来期の戦力について語ったであろうか。
また当時、子供たちは皆野球選手を目指していたというが、それは世間が典型的な子供像を語る上での常套句のようなものでしかなかったのではないか。昨今のNPBを取り巻く環境を私なりに精査するに、同じ物差しで測るのは難しいが、決してプ口野球黄金時代の在りし日と比較して、電通の子会社が出す関東地方の地上波の視聴率以外、その人気が落ちたようには思えない。
まさに今回のドラフトの扱われ方がそうであるし、世の中を眺めるにつけても、たとえばゲームアプリの「プ口野球スピリッツA」に興じる若者の姿が、通勤通学中の一つの風景として日常的にそこかしこにあることに驚きを感じている。また事実、売り上げも他の追随を許さない。この熱や環境が整っているうちに、NPBは新規戦略を練るべきだ。これ安泰と胡坐をかいていたらえらい目に遭うぞ、とだけ申し上げておこう。
それでは西武の指名を振り返りたい。
今年の投の一番人気は、三球団競合の武内で間違いない。しかし去年の荘司同様、まだ私にはピンとこない。まずいかり肩なのでどうか、というようなことを書いた。言いがかりといわれればそれまでか。
ドラフト前から評価も高く、事前に一位の表明が西武、ソフトバンクからあってそれは固まった。となると後は提灯記事の連鎖。そこが面白くなくて難癖つけた面はある。
私が武内を評価しないのは、ボールの質にある。これは好みの問題だが、”キュッ”、とか ”グッ” 、とかそういう動きをするボールを投げる投手が好きなのだ。それはストレート、変化球共に。ボールが活きてる、そう感じる瞬間が私の惚れるか否かの分岐点。
残念ながら武内の投球からはそれを感じなかった。150㌔越えの左腕となれば、奪三振がイニングを上回る例は決して珍しくはない。ましてガバガバな東都のストライクゾーン。しかし武内の場合奪三振は平均して7ぐらいか。それはリリーフでマウンドに上がった場合も同様。制球はそこそこなので、打たせて取るタイプという線で落ち着くのであろう。がっ、そこが私には物足りなく映る。
ただ左腕の評価は難しい。正直言えば苦手。動画だけ眺めていても判らない部分が多い。特にセンターからのカメラの場合、バックスクリーン左側から映すので、右投手の投球動作は良く判るが、左となると極端に言えば常に背中を向けているので難しい面が多い。じゃあ現場で観ろよ、と言われればそれまでなのだが、なかなかそうはいかない。お察し願いたい。
左腕で見立て違いと言えば、三年前、伊藤将司の二位指名を、佐々木より上だから悪くはないが、中森がいたのに、と書いて見事に外した。もちろん中森はこれからの投手であるが、この三年で29も勝った伊藤に対して失礼な真似をしたと自らの不明を恥じている。
伊藤が凄いのは、打者有利のカウントでも楽にストライクが取れるところ。右の外、左の内で力ウントを稼ぐ。プロの厳しいしトライクゾーンで、この芸当を果たして武内ができるのか、春から注目したい!
二位の上田は阪神の一位指名も囁かれた投手。球威はあるが、身体の開きの早さをどう凌くかがポイントになる。またテイクバックは小さく、去年ハムに入った金村に似ているが、球持ちは金村の方が良かったように思う。パワーで押し切るスタイルのままだと、中継ぎで便利使いされる気がする。
金村が13番目の選手で上田は16番目。そんなもんかと思う反面、 ドラフト前の大方の意見としては、去年は不作で今年は豊作。その意見に概ね賛成ではあるが、この二人の位置を見ている限りはよく判らなくなる。
三位の杉山は、私の評価一覧に書き漏らした投手。私の中では今年一番の高校生左腕は仁田で、次が杉山。東松、福田よりも上との見立て。表を書いてしばらくしてから忘れていたことに気づいた。何を言っても後出しじゃんけんになるが、宮城に一番近い投手と思っていた。今年高校生NO. 1の変化球投手とも言える。
このレベルを三位で獲れるということは、やはり今年は豊作で良い気がする。個人的には限りなく二位に近い素材。お値打ち指名だと思う。
四位の成田は馬力型右腕。ショートアームというか、せっかちなフォームながら指に引っかかったボールは威力十分。しかしこの夏、光星に10安打、8四死球の11失点で見事に炎上。高校野球にピリオドを打った。この試合の結果を聞いて、今年の光星は強い、優勝候補に挙げた根拠でもあった。
果たして西武がこの子をどう育てるのか。まず同期の杉山がクイック、牽制、フィールディングと一通り完璧にこなすので、劣等感に苛まれるところからのスタートだと思う。
五位の宮澤は北大法学部に籍を置く独立リーガー。 学歴命の藤島大が聞いたら誉めそやしそうな投手。 できればファイターズが指名して欲しかった。 なぜ指名できなかったのか? 四位で明瀬を指名した以上、それは叶わぬ願いであった。
タイプ的には元ヤクルトの五十嵐と相似形。球質も似ている。担いで押し込むように投げるが、そこからのボールは威力十分。この位置まで残ったいたのが不思議でもある。中継ぎの層を厚くしたいチームなら、もっと上で指名されてもよかったと思う。これまたお値打ち指名である。
冒頭で触れた六位指名の村田。実力的には高校七年生である。特にトップの位置を作れていない点に、まだまだこれからだと感じる。日ハムの三位指名を受けた宮崎も程度の差はあれ同様で、二人して打席ではこのあたりかな、という感じでバットを引いている。
投球ごとにトップの位置がまちまちではあるが、共に身体能力、特に村田は腕力があるので何とかなっている。しかし間違いなくプ口入り後苦労するだろう。恐らく最初からトップを作る構えに変えられると思う。そこからノーステップ打法で打つ村田の姿が目に浮かぶようだ。
たとえ紅白戦でホームランを打つようなことがあっても、それはまぐれというか事故でしかなく、来年イースタンでは何とか二割三分打てるよう努力して欲しい。
七位の糸川は潮崎枠。これではコーチも迂闊に手を出せないのではないか。ならば編成トップが責任もって指導してもらいたいものだ。
総括するなら、三位の杉山と五位の宮澤の二人はまさにお値打ち指名。個人的に上位の二人はそれほど評価していないが、世間のそれは当然のように高く、よって西武が今年のドラフトで勝ち組であることは間違いない。来年は投手は揃っているので、優勝は無理でもAクラス復帰は十分あると思う。
勝ち組ドラフトと結論付けた割には、何だか熱のないおざなりな文章になった。正直に白状すると、西武のスカウトやその手法は好きではない。いわゆる山師タイプが多いからだ。今はどうか判らないが、十年以上前の西武のスカウトは、球団から貰う給料と同じぐらいを、他で稼いでくるような奴ばかりであった。
スカウトがアマ球界と良好な関係を築くことは、仕事の中でも一丁目一番地である。なので、大学や社会人チームに有望な高校生の口利きをスカウトがする、というのは普通に行われている。たとえば八幡南高校時代ほぼ無名であった武内に、国学院大を薦めたのは中日の九州担当スカウトである。
スカウトとしては選手や高校、進学先とすべてに恩が売れるし、大学側もスカウトが言ってくるなら間違いないとして、有難く話を進めるのが礼儀というか筋だといえる。つまりウインウイン、八方良しだ。更に武内のように活躍すれば、その絆は深化するであろう。
そういう関係を発展させたようなケースもある。中大の野球部二年に永井という選手が在籍している。名門福岡大大濠出身。しかしサイズはなく選手としての実績は今一つ。聞けばソフトバンクの永井編成本部長のご子息だそうだ。
永井部長はこの夏視察で甲子園を訪れた際、U18にも選ばれた浜松開誠館の新妻を手放しで誉めている。
非常に嬉しそである。因みに新妻は中大進学が内定している。永井が口利きをしたかどうかは判らないが、息子の大学に良い選手が進むことに満足しているようだ
繰り返しになるが、スカウトは選手を指名し迎え入れることでパイプを作るのではない。主に日頃の活動や行いを通じ、たとえば有望な高校生の情報を伝えるなどして関係を深めていくことも重要である。
しかし西武のスカウトの場合、そこに行き過ぎた面があったように思う。たとえば、超名門私立大学の野球部への口利きをしてやるから、親や学校法人側から金を引っ張れないか、というようないわゆる裏口入学斡旋とか、花が咲く手前の高校生に、大学を紹介してやるから四年後はうちに入れよ、とか・・・・。
東北学院の岸が、地元楽天を蹴って西武を逆指名した際、 なんか変だな、そう感じた方は多かったのではなかろうか。 あの年、右ではNO.1投手である。巨人なら西武の倍は積んだであろうし、楽天でも少し上の金額の提示は可能であったと思う。随分と前から西武と岸はデキていた、というか縛り付けられていた、と見るのは私の心が汚れているからであろうか。
根本氏が球界に遺したものは多いと聞く。亡くなってから数年を経てもなお、”根本はまだ生きている” そう囁かれたドラフトを何度も見てきた。しかし、この人の負の功績として、行き過ぎたマネーゲームを助長させた点を指摘する者は少ない。
西武のスカウトには、根本の寝技を変な風に曲解した、いわゆる輩が多かった。
今はそうでないことを願うばかりである。