Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

日本ラグビー 敗れる!

 日本ラグビーが敗れた。単に日本代表がイングランドに負けたのではない。一昨日、日本ラグビーが敗れたのだ。

 もちろん、ベスト8に残る可能性はまだある。しかし、仮にサモア、アルゼンチンに連勝しても、私のその判断は不変である。日本ラグビーは敗れたのだと。

 今大会、日本ラグビーは何を求められていたのであろうか? たとえばこの私は、代表のフランスでの戦いに、そして日本ラグビーに何を求めていたのであろう。ベスト8か、それともベスト4か? いや、そのどちらでもない、あえて答えを言おう、それは若手の躍動であり、新世代の台頭であると。

 八年前、ラグビー日本代表は突如スポーツ界最大の番狂わせを巻き起こし、日本以外を大いに驚かせた。現に当時のチャールズ皇太子は居ても立ってもいられず、その日の未明、皇室に祝電を打ったほどだ。それを取り次いだ宮内庁の職員は、何事かと仰天した。天皇も同様に驚いて、急遽、ブライトンの日本チームに祝辞を送った。それぐらい世界を慌てさせた。

 そして四年前、初の母国開催で見事に8強入りを四連勝で果たした。その間日本はラグビー一色に染まりこの国のスポーツ界にも少なからぬ衝撃と影響を与えた。つまりは、8年前のブライトンの奇跡でラグビーを始める子供たちが現れ、4年前の日本代表の快進撃を目の当たりにし、その流れは確かなものになる、そう信じ、それを狙っていた。

 だが、結局何も起こらなかった・・・・。

 ラグビーの競技人口はたかだか10万人。それが一向に伸びないことを嘆いているのではない。花園の参加校の中に合同チームが増えていることを問題視しているのでもない。この四年、世間はコロナ禍で閉ざされた月日であったが、私は待った、待ち続けることにした。新世代のラガーマンの台頭があると、必ず花園や秩父宮を騒がせる逸材が現れるはずだと、そしてその漢がフランスで日の丸を背負うと。

 しかし、待ち人は現れなかった。それをもって、日本ラグビーは敗れた、そう言うのである。

 

 思い返すなら、松島、福岡はイングランド大会を23歳で迎えた。南アフリカ戦で文字通り獅子奮迅の活躍をみせた立川は26、 前回大会の姫野は25ですでにチームの柱であった。今回、残念ながらそんな選手が見当たらない。

 抜擢された若手と言える選手は、ディアンズを除くなら長田と福井のみ。因みに二人は同期、共に24歳である。そしてこの二試合、特に仕事はしていない。若手の突き上げがない以上、主力選手たちは四歳年老い、その結果、日本代表は確実に弱くなった・・・・。

 なぜ若手の台頭がないのか。あえていうなら、協会が行き当たりばったりでビジョンがないことと、大学ラグビーがチームのことしか考えていないこと、リーグワンの各チームが高卒の選手を受け入れるのを躊躇っていること、これに尽きるのであろう。

 つまりそれぞれが自分のことしか、そして今しか見ようとしないのだ。ゆえに才能のある選手を預かっている、もしくは預かるという自覚がないということか。

 先月だったかその前だったか、ラグビーマガジンに早稲田の新主将のインタビューが載っていた。カラーで4Pも5Pも。特別な扱いであることは読む側にも自然伝わってくる。その中で、彼は組織が ”変わる” ことの重要性を訥々と語るのであった。それを読みながらふと、一番変わらなければならないのは君ではないのか、そう思った。皮肉にも、改めて ”変わる” こととは何なのか、その記事から考えさせられた。はっきりいえば、伊藤は大学ラグビーにいるべき選手ではない、ということなのだ。

 伊藤ほどの選手であれば、大学ラグビーは二、三年までにして、なぜリーグワンに挑戦しようとしないのだろう。本人はもちろんだが、周りもその道について真剣に考えようとしないのか。

 そう書くと必ず、早稲田蹴球部の主将ともなれば、超一流企業に幹部社員としての道が拓けているのに、なぜそれを閉ざすようなことを簡単に言うのか、無責任だろ、というややこしいことを言うのが出てくる。あの・・・・、そんなのないからっ!

 私の在籍した企業は今もラグビーチームを持っているが、伝統校のラグビー部の元選手の管理職などいなかったし、今もいないし、これからも出ない。

 一昔前、美人の女の子に女優やアイドルの道を薦めたら、これだけ器量の良い娘なのだから、良い縁談に恵まれようというのに何てことを言ってくれるのだと咬みついてくるババァがいたのだとか。さすがに今はもうそういうのは絶滅したと思う。

 ところがラグビー界隈にはそれとよく似たのがいまだにいるらしい。伝統校のラガーマンなら皆、故宿沢さんは無理でも土田氏ぐらいの才能ならある、本気でそう思っている輩が。百歩譲ってもしそれが本当なら、世の一流企業の役員は伝統校のラガーマンで溢れていることであろう。

 大学までラグビーをやる漢には、結局、良きにつけ悪しきにつけラガーマンとしての人生しかない。それでいいじゃないか! むしろ何が悪いのか・・・・?

 自分には幾通りもの人生があったかも、そう思う浅はかさよ。三つ子の魂百まで、己には己の人生しか用意などされていない。だからこそ良いのだ! 一頃流行った ”Only One” ってやつ。ラグビーの能力に秀でた漢は、それを究める道を進む。周りもそうサポートする、それが筋だ。仮に本人が迷っているのであれば尚更。伊藤に限らず、大学の下級生時に頭角を現した選手は上級生の二年間、もうそこでやることなどないだろう。中退しろとは言わないが、リーグワンへのアーリーエントリーを視野に入れるべき。Jリーグの選手を眺めている限り、むしろそれが普通である。

 ラグビーの場合はこの三十年間でそれに該当するのは山沢のケースだけ。意図せぬ経歴となった李承信の進んだ道筋もまた示唆に富むものだと思う。しかしこの二人は例外であって、よほど居心地が良いのか、みんな四年間律義に在籍する。

 

 この春、高校代表はスコットランドに遠征し、かなり良い勝負をした。しかしU20で差がつき、そして次の二年間でその差は決定的なものとなる。才能溢れる選手であればあるほど、大学の四年間が無駄なのだ。これがラグビー日本代表に新星が現れないカラクリである。

 野球だって大学四年間在籍することが前提じゃねぇか、という突っ込みもあるのだろう。だが野球のエリートはほぼ高卒でプロ入りをするので、そもそも比較にはならない。早実の清宮が、早稲田進学を蹴ってプロ入りしたのが象徴的である。

 

 そもそもラグビーは球技と見なさないほうが良いだろう。ほぼフルコンタクトの格闘技なのである。だから極端な例かもしれないが、井上尚弥がなぜ階級を上げ、その四つを全て制覇し、四つの団体統一王者になりえたのか。世界を震わせ続けるその魂の根源はどこにあるのか、そう全大学生のラガーマンに問うてみたい。

 プロ契約した際、「強い選手と戦う。弱い選手とは戦わない」そう自ら条件を付けたというが、そこに尽きるのであろう。

 翻って優秀な大学ラグビー選手が、四年間も同じカテゴリーでプレーを続けることに意味はあるのか・・・・?

 才能ある新入生が現れ活躍すれば、所属チームの首脳陣や大学ラグビーファンはこぞって、後三年チームは安泰、応援が楽しみだ、となる。この構造にこそ問題があることは明白なのだが・・・・。

 井上にもフライ級やバンダム級に留まり、チャンピオンであり続ける、という選択肢はあったであろう。しかしそんなこと、本人も周りも一切望んでなどいない。日本ラグビーを取り巻く環境とはなんと違うことか。

 

 ラグビーは格闘技ではなくあくまで団体競技、チームの優勝を目指すことにこそ意義がある。これこそが ”one for all,  all for one,” の精神なのだ、そう仰る方もいるのでしょうよ。しかし、そこを整理してあげるのが大人の役割であろう。また仮にそうであるのなら、同じ団体競技で同根のフットボールでもある大学サッカ一が、”特別指定選手制度” を受け入れ、快く在学中のエースをJリーグに送り込んでいることと、整合性が取れないと思うのだが。

 大学サッカーチームもリーグの優勝や、果てはプロを抑えての天皇杯制覇が究極の目標であるはず。突然エースが抜けて困らないわけはない。さらにいえば、筑波や法政の熱心なサッカーファンたちが、三苫や上田綺世をJリーグに引き抜かれたと騒ぎ出した、という話もまったく耳にしない。

 結果として大学が腰掛になろうとも、本人のため、そしてトップカテゴリーのため、引いてはこの国の競技レベルを上げるためであれば構わない、とするサッカー側の考え方こそがまともに思える。実際それでサッカー日本代表はメキメキ強くなっているのだから。

 

 

 このままだと、ますます日本のラグビーは世界から取り残されることになる。もし早稲田の伊藤や矢崎が、突如リーグワン入りを表明したら、大学ラグビーファンたちはどうする? 藤島大や中尾はどう言うのだろう?

 彼らが大人の対応をできた時、きっと日本ラグビーは変わるのであろう。




 最後になるが、その結論であればW杯前、日本代表メンバーが決まった段階で言えよ、という向きもあるのだろう。しかしさすがにそこまではできなかった。せめてイングランド戦を観てから、となってしまった。甘いと言われればその通りである。真夏の国内五連戦前に、1勝3敗と言うのが精いっぱいであった。

 まだ自分の中には代表に期待しているのがいる、というのもある。それはもうしばらく消えないのであろう。しかしそれもサモアに負ければ綺麗にいなくなる。時間の問題だ。

 ただしアルゼンチン戦の最後の瞬間まで見届ける。その覚悟はできている。姫野主将の奮闘をしっかりと瞼に焼き付けるつもりである。

 残り二戦、姫野が ”ミスターラグビー” に昇華することを祈る。