Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

Rの時代 Ⅷ

 日一日と、ラグビーW杯が迫ってくる。借金取りに追われているような気分だ。阪神のマジックは順調に減っているというのに、こちらはその日が近づくにつれ辛くなる。何が辛いのか? それは、イングランド大会、日本大会と続けて代表が健闘し戦績は七勝二敗。遂に念願でもあったTier1というか、ハイパフオーマンスなんちゃらにも選ばれた。それが今大会での結果いかんで露と消えるのではないか、そう憂いているのだ。

 恐らく大会に入れば、あまりの酷さにラグビーについて書けなくなるかもしれない。今のうちに思うところを記しておこう。

 まず、日本代表がダメになったというよりも、日本以外のチームのレベルが上がった、という表現が正しいのではないか。直前のテストマッチを観た限りでしかないがそう感じた。これは甘い見立てになるのだろうか。

 実際に闘ったトンガのHCからは、「日本代表はもっと強かった」、そうはっきり言われた。ということはきっとそうなのかもしれない。

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 仮にそうであれば、理由は何度もここで申し上げているが、この四年間、ほぼ国内に籠ったのが間違いだったということか。イタリアは6Nで毎年揉まれ、サモアやトンガはスーパーラグビーアイランダー混合の単独チームを創り参戦するようになった。そんな状況の下、淡々とテストマッチを半年置きにこなすだけで、それ以外は特に何もしなかった日本代表が、相対的に落ち込んだというのは容易に想像がつく。だとしたらこの四年間って、いったい何だったのだろう。

 LEAGUE ONE さえ立ち上げれば、それで強くなれるとでも思ったのか? 看板を書き換えただけで、中身は同じにしか見えないが、協会はそれなりの手ごたえを感じていた節がある。少なくとも国内でも強度の高い試合は可能、との判断であったのだろう。この夏、慌てたようにテストマッチを重ねたが、結果として一勝しかできなかった。代表選手以上に協会の連中が一番慌てているのかもしれない。



 ラグビーとは、四年サイクルで進化し続けるものだ。たとえば前回覇者南アフリカがいかにして王者に返り咲いたかその軌跡を辿ってみるといい。15年のイングランド大会の直後、16年と17年のボクスは見るも無残であった。これじゃブライトンの奇跡の価値が薄れる、頼むから勝ってくれ、日本人としてそう願わずにはおれなかった。それぐらい酷かった。

 低迷が本番直前の18年まで続いた後、19年の頭からしっかりとチームを立て直し、ご存じの通り世界一を掴み取った。四年という括りで、南アフリカはそのロードマップを描けていたということになるのであろう。

 では日本代表はどうであったか。たとえば四コマ漫画は、”起承転結” で成り立っているが、日本にとってのこの四年間とは、”起”、もしくは”承” までだったように感じる。まさかその残りのニコマを、W杯で一気にやるというのか? もしそうであれば俄然楽しみになるのだが! マジにそれで頼むわ♪

 思うに、結局、”転” にあたる年月が必要だったのではないか。先ほど申し上げた、南アフリカがヨーロッパ遠征でほとんど勝てなかった、ちょうど同じ時期、サンウルブスも南半球を転戦する中これでもかと負け続けた。今思えば、両国にとってあれは良い経験ではなかったか。お互いに最高の形で”結” を迎えることができたのだから。スーパーラグビー参戦の三年間をもう一度やれとはもう言わないが、そういうボロボロの時期を一定の期間経験するのは必要なのかもしれない。

 もし協会がこの四年間、前回通用したから何とかなると胡坐をかき、コロナを都合の良い言い訳にして、国内での巣籠を決め込んだのであれば、その判断に対する責任は重い。LEAGUE ONE を世界最高峰にするというのも裏目に出た。美名に酔い、内向きに拍車がかかったからだ。その結果はこれからの一ヶ月で出る。しっかりと落とし前はつけてもらいたい。

 

 自国開催のW杯が大成功に終わり、一息入れたい気持ちは判らんでもない。しかしそれが長過ぎる。祭りの後の高揚と、その次に来る一時的なエアポケット。余韻を味わいたいというのもあったのであろう。人情としては理解するが、組織全体がそこに陥るようでは、協会はやはり三流のそれということになる。日本大会が終わった時点で、次はフランスだと切り替えるべきであった。

 まず企業の側に立てば、日本開催のためにどれだけ金を掛けたか、それを忘れたとは言わさん、という部分が間違いなく最初に来たであろう。つまりこれから先、そう簡単に金は出せんぞということ。しかし、日本のラグビーはW杯日本大会で終わりではない。ここからまた始まる、そこを判ってもらうためにもう一段ギアを上げて欲しかった。お互い日本大会に向けて頑張りましたよね、では共感は得られても次の商談に結びつくことはない。想い出話とビジネスは違う、そういうことだ。

 LEAGUE ONE を世界最高峰にする、という掛け声には賛同する。しかし、世界最高レベルを目指すなら、それに見合った投資が必須だ。そのためには、各チームの親会社をその気にさせ、財布の紐が自然と緩む、そんな仕組みやビジョンを作って見せてやらなければならない。言うまでもなくそれこそが協会の仕事である。

 親会社が金を出せば、それが選手個人の能力を高め、次に組織を強くし、果ては日本代表のレベルアップに繋がる。そして最後にラグビーを通じ親会社へのリターンがある、という循環、それを生むための投資。別にリターンというのは金でなくてもいい。企業イメージが上がるとか、ファンが増えるとか、組織の一体感を醸成するとかでも構わない。

 しかし LEAGUE ONE 誕生前後を眺めていると、それがどこかで根詰まりを起こしているように見えて、企業がそこにいっちょ乗ってやるかとならない。実際、電通が絡むだけで間を抜くのは目に見えている。つまりサイクルが綺麗に回るように思えない。それでは投資に見合ったリターンはない、そう判断されるのが関の山である。

 

 逆に言えば、投資に値すると思った企業にとって、前回のW杯はステップに過ぎなかったであろう。クボタは間違いなくそう感じることができたはず。実際にこの四年間でチームも一気に強くなった。ただ残念なのはこの一社だけってところか。まぁキャノンもそこに入れるとしよう。残りは総じて緩やかな右肩下がりという感じ。

 ー見上手くいっているパナソニックも、旧三洋陣営をなだめるためラグビー部を維持しているように見える。もしくは吸収合併の際の約束を守っているようにも。なのでどこかの段階で、使命は果たしたと手放さないか心配になる。

 サントリー東芝、三菱相模原あたりですら、ラグビーが投資に値するのか決めかねている様子。トヨタは体力が違うので他の企業と一緒にはできないが、残りはすべてW杯日本大会の熱気が冷めた今、ラグビーチームはお荷物になりかねない状況である。

 選手もそんな所属チームの煮え切らない状況に気を揉み、自らの立場については、選手と社員の間で行ったり来たり揺れている。まぁそこは判らんでもない。ラグビーとは危険の伴う、限りなく格闘技なフットボールなのだから。

 

 W杯直前にして、私も反省しているところがある。二年ほど前までであったか、とにかくまずは日本代表を何とかしろ、そればかり言い続けた。この国のラグビーの構造上、日本代表が世界を相手に結果を出し、それが選手の所属チームや大学、高校などに波及していく、つまりはトップダウンなのだと。確かにそういう部分はある。しかしそれでは、代表人気が各カテゴリーに伝わってくるまで指折り数えて待っていろ、ということになりはしないか。

 まず第ーに、選手は所属チームから給料をもらっている、それで暮らし家族を養っている。だというのに、代表で活躍することが全てであるように周りが言うのは間違っていると思う。選手は何よりも稼ぐため、生活のためにラグビーをする、そこを優先させるべきだ。代表よりも所属チームで試合をする方が儲かるのなら、わざわざ日の丸を背負う必要はない。仮にファンがその選択を責めたとしても、それは選手を取り巻く環境や構造がおかしいのであって、選手に罪はない。

 先日、関係者と話す機会があったのだが、サンウルブスのあの三年間は瀬戸際のところで踏みとどまり、維持し存続していたのだという。選手も所属チームも、そして協会さえも。ワールドカップ日本大会に胸を張って挑み、悔いなく闘い、そして無事に終えるために。それぞれが歩み寄り、犠牲を受け入れ、我慢の連続だったという。

 この四年間、国内のリーグを優先させ、代表の海外での試合を断ったことに一定の理解を示したい。所属チームが立ち行かなければ、日本代表もないということ。ただ問題がないわけではない。そこまで国内に拘ったのに、21、22年と、リーグの開幕を二年続けてコロナで棒に振った。そこは協会の威信が問われてしかるべきだと思う。

 今後、代表強化のために合宿やテストマッチを増やしたり、サンウルブスを再編成するにしても、その報酬は誰が、どれだけ払うのか、といった問題は繰り返し議論されるべきであろう。そこを密室でやるのではなく、公にして、場合によってはクラウドファンディングも含め、ファンを広く遍く巻き込むというのはどうか。

 LEAGUE ONE が真剣に世界最高峰のリーグを目指すというのなら、選手たちはしっかりとした選手会や組合を作るべきだ。協会や親会社の覚悟を試す意味でもそれは必要。そして海外の選手も含めて、年金や福利厚生についても検討して欲しい。

 協会にはこれからもここで無理難題を言い続けるつもりである。がっ、今日はこれ以上はやめておく。まずは選手が代表としてW杯という晴れの舞台で、怪我を怖れることなく全力でプレーできる、そういう環境を作ることに専念して欲しい、そう願うばかりである。

 

 最後に少し期待の持てる部分を。先ほど、ラグビーとは四年単位で進化するものだと書いた。そこで ”起承転結” について触れた。前回でいえばサンウルブスで負け続けた時期が ”転” に当たるのだとも。7月からの六試合、わが日本代表は一勝五敗で終えた。まさにボロボロのグダグダであった。果たしてあの時期は何に当たるのだろう? われながら甘いな・・・・。