Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

Rの時代 Ⅰ

 ラグビーW杯まで後ニヵ月。週末には最初の対外試合が行われる。vs All Blacks XV、相手にとって不足はない。これを皮切りに国内で5試合、ヨーロッパでイタリアと1試合、立て続けに腕試しは続く。私も月末には花園に行く。恐らくラグビーファンにとってこれからの二ヵ月、あっという間に過ぎていくのであろう。まったく砂時計の上にいるような気分で落ち着かない。だが、私なんぞどこに落ちようが砂まみれになろうが構わない。もっと心配なことがある。果たして今回の日本代表がどこまで闘えるのか、これに尽きる。

 私にとってこの四年間とは、ラグビー日本代表の現在地を探し求める日々であった。

 世界と闘えるのか? サンウルブスが無くて大丈夫か? リーグONEはプロの集団になったのか? 大学ラグビーはこのままでいいのか? 花園のレベルはどうだ? そして世界のラグビーはどこまで進化したのか・・・・?

 恐らくそれらの答えのすべてをW杯2023での日本代表の闘いが、ーつーつ、丁寧に、判り易く、目の前で紐解き、明らかにしてくれるのであろう。その時、できれば暗い気持ちで答え合わせをしたくはない。結果が伴わなくても、前向きになれるものを見つけたい、そんな思いである。

 

 まずはここでどこよりも早く、W杯における日本代表の闘いを占ってみたい。まぁ控えめに言うのであるが、勝利は初戦のチリ戦のみ。イングランドには前半拮抗も後半突き放され、サモアには前半から圧倒され、後半の最後にらしさは見せるも追いつけず、そしてアルゼンチンには力負け、そう予想する。できれば外れて欲しい。良い方向で裏切られることを切に願う。

 今大会の日本代表に対するメディアの注目度は、どうやらわれわれが思っているよりも高い。前回もそれなりの扱いだったが、日本開催であったことを割り引く必要がある。四年前の快進撃でライト層が振り向いた、今回も振り向けることは可能との読みであろう。

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 二戦目となる対イングランド戦のチケットは全体で5番人気。日本代表の試合がアウェーのW杯でプラチナ化しているのだという。嘘のような話ではないか。こう来れば、それより上の四試合の組み合わせも気になる。恐らく開幕戦のフランス-NZ戦がダントツ。フランスーイタリア戦もTop5に入っているであろう。前回覇者南アフリカアイルランドスコットランドとの戦いにも注目が集まる。となると日本ーイングランド戦は、プールCの一抜けを賭けたオーストラリアーウエールズ戦と肩を並べる、そんな格付けであろうか。もちろん相手がイングランドだからであるが、それでも立派になったものだ。名誉なことである。

 イングランド大会のその直前、エディーが日本代表を、対戦相手から、そして海外の観衆からリスペクトされるチームにする、そう宣った。当時、まぁええけどさ、結果を残してから言おうぜ、そう思ったものだ。あれから8年、日本代表はよくやってきたと思う。できればこの地位を失いたくはない。今回もしっかりと世界に爪痕を残す、そんな大会にしてもらいたいと願う。恐らくここを訪れる多くの方も同じ思いであろう。

 

 先ほどネガティブな予想をした。対外試合やテストマッチをじっくりと眺めてからそれをしろよ、そういう見方もあるだろう。がっ、その必要はない。仮にAll Blacks XV に為す術もなく敗れたとしても、日本は過酷な合宿明けであり想定内、そんな言い訳が先に来る。

 ではトンガやサモア、フィジーはどうか? クソ熱いうえに湿度の高い環境下で、彼らがベストのパフォーマンスを見せるわけがない。特にサモアは手の内を隠すだろう。仮に同じメンバーであってさえ、9月にはまったく別のチームが待ち受けている、そう思ったほうが良い。つまりアイランダーたちとやる三試合もまた、参考にはなりはしない。

 もしかすると8月のイタリア戦でのみ、滅多に観れない牽牛織姫の逢瀬のようにその片鱗を垣間見ることができるかもしれないが、結局のところ日本代表の現在地は、W杯のその蓋を開けるまで判らない。サンウルブスを失ったその喪失感を、梅雨空を恨みながらしみじみと感じる次第である。

 最後に先のネガティブな予想のその理由を記しておきたい。やはりセットプレー、特にスクラムに問題が生じると見る。

 去年のトゥイッケナムでのイングランド戦、前半全くスクラムを組ませてもらえず惨敗した。なぜ日本はスクラムであんなに反則を繰り返したのか? もちろんいろんな理由があるのだろうが、私の見立てはといえば以下の通りだ。

 この二十年間、スクラムはルール改定を繰り返し、組み合う一列目の間隔が狭くなった。コールもエンゲージからセットへと変わた。それにも熟れてきた現在、その短くなった距離の中で、いかに間合いを取って相手一列に有効なプレッシャーを掛けられるかが鍵となろう。特に対日本であれば、まずはそこで積極的に仕掛けてスクラムの優位を、序盤で一気に決めてしまおうという狙いになるのではないか。もちろんレフリーへの印象操作という側面もある。

 日本人の一列目はやはり身体が小さい。骨組も残念ながら世界レベルで言えば太くはない。その体格差を活かして仕掛けてくるプレッシャーとは、ルールの許す範囲で距離を置いて、そこから速く強く組む、ある意味エンゲージ時代のヒットに近い衝撃を相手に与えることを意図するものになるのであろう。

 そう思ってあの日の具や坂手の表情を見ていると、組んでからの押し込みや、揺さぶられてからどうこうではなく、とにかく先制パンチともいえる一撃に面喰った、といった印象であった。

 こうなると相手からすればしめたもの。こちらの一列は、何とかそのぶちかましの衝突を和らげようとするであろうから、少しでも距離をつめようと自然前のめりになってしまう。結果、そこからコラプシングやアーリーエンゲージを誘発するというロジック・・・・。このイングランド戦序盤の光景が、以来脳裏にこびりついて離れない。

 更にここから踏み込んで想像するなら、サモアやアルゼンチンは前半の15分間、そこで組むスクラムが全てとばかりに渾身のー撃を加えてくるのではないか。無論彼らも消耗するのであろうが、極端に言えば残りの65分間のスクラムは組んでいるだけで構わない、とにかく前半の15分で日本の一列目を粉砕せよ、対日本の戦略としては、これが一番正しいように思う。

 ではどうすればいいのか・・・・?

 長谷川コーチの手腕やうん千万したというマーシンをもってしても対応できるのは相手八人による押し込みや、一列二列目が仕掛けてくる左右からの圧力、つまり揺さぶりまで、最初のヒットだけはどうにも打つ手はない。そもそもが、ヒットでもエンゲージでもなくセットなのだが・・・・。

 調布でスクラムを星屑のように粉砕されたあの日以降、一列目はほぼ日本の選手とばかり組んできた。その代償を四年に一度の祭典で払わされることになるのでは、そう心配する星祭の朝である。