Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

阪神 優勝へのカウントダウン Ⅶ

 どうやら阪神が優勝しそう、関西の街ではそんな気配が漂っている。幼い頃よりそれを願い続けた私であるが、今、正直戸惑っている。実は阪神の優勝を地元大阪で迎えるのは初めてなのだ。過去三度はいずれも東京にいた。だから、「あの時の道頓堀は凄かったよな!」、「そうそう実はあの時なぁ」などと言われると逃げ出したくなる。プロの阪神ファンを自称する者として立ち場なしだ。

 それに生来の天邪鬼というのもある。ここに来てさえも、何かと斜めに構えたくなる自分がいる。そこをどう矯正すればいいのか悩むところである。

 このブログもそうだ。かねてより阪神が勝った日はなるべく更新しないようにしてきた。まして連勝が続いたりすれば、そっとしておこう、という心理が働き筆が進まない。

 もともと阪神に対するラブレターのようなものを書く気などない。今日も勝ってくれて有難う♪ そんな気色の悪いこと、よう書かんわ! 結局、阪神が調子が良い時はブログを書かなくていい、それをサボりの言い訳にしてきたのかもしれない。

 しかしこれからは違う。なるべく毎日書こうと思う。退路を断つ、ブログと向き合う、そのためのこのタイトルなのだから。

 

 

 「岡田監督ってどこがいいのですか?」

 春から何度も繰り返し尋ねられた。どうやら私のこと以上に興味があるようだ。少しばかり癪ではあるが、そこはプロの阪神ファン、ぐっとこらえて少し目を閉じ腕を組み、佐藤が打席を外すぐらいの間合いを置いてから、適材適所”、静かにそう答えるようにしている。目を開けたら誰もいなかったけどさ。

 以前、というかこのブログ開設当初だから20年の開幕直前、これからの五年間で阪神は二度優勝すると書いた。しかし課題がないわけではなく、それを阻む要素としてJOKERなるものについて触れた。

 JOKERとは、有体に言えばそれに該当する選手が主力として活躍するようでは、そのチームの優勝はない、そういう選手のことである。

 阪神の野手で言えば糸原、投手版は青柳、そう書いた。

tilleternity.hatenablog.jp

 本当にしみじみと思うのであるが、糸原とはJOKERそのものであった。今年はほぼ代打に固定し61打席。打率は低いがチームに欠かせない存在として味のある活躍をしている。これからも終盤、渋い出塁や貴重な犠飛を打って、優勝に貢献することだろう。まさに糸原にとって代打は適材適所である。しかしそれを判らなかった輩がいる。矢野と井上だ。

 このニ人が指揮を執った間、糸原はレギュラーであり続けた。あまつさえ三番や五番を打つこともあった。しかしてそれらの貴重な経験の蓄積があったればこそ、まさに今、糸原は代打で存在感を示せるようになった、というわけではないところがこの糸原問題の最大のポイントであり核心であろう。つまり、今の役割であれば、糸原は入団からそのままで十分に勤まった、ここに尽きる。

 大事なことなので繰り返す、去年までの四年間、糸原は当たり前のようにスタメンに名を連ね、二千近くの打席や何百もの守備機会を与えられた。その挙句、ああやっぱり糸原の適性は代打にこそあったって、そりゃないだろってことだ! こっちにしてみりゃ、三年以上も前からここで言ってましたよって話である。なぜ矢野と井上には糸原の適材適所を理解できなかったのであろう。今もって謎というか闇である・・・・。

 できればそれらの機会の半分でもいいから返してくれないか、真剣にそう思うことがある。仮にそれをそのまま北條なり植田なりに与えていたらどうだったか。彼らはもっと違う選手になっていたかもしれないではないか。矢野はベンチでの声出しなどで北條をいつも誉め讃えた。しかし戦力としての北條はまったく信用していなかった。逆に去年までは、レギュラーとしての糸原に絶大の信頼を寄せていた。ー転今年に入ると、糸原がスタメンに付け入る隙も、代打以外のニーズもまったくと言って良いほどない。特に大きな補強をしたわけでも、糸原が衰えたわけでもないのにだ。

 そして何よりチームは格段に強くなった。たった半年でこれだ。つまりそれこそが彼のJOKERたる所以なのだ。

 ”事起こし”、井上が糸原に与えたミッションだ。今聞いても虚しさのあまり吐き気がするのは私だけであろうか。



 青柳をJOKER扱いしたことについては、まずこちらの不明を詫びてからになるのであろう。なにせ二年連続最多勝投手様なのだから。この間青柳の活躍は見事であり、そして私としては想定外であった。見る眼がないとの誹りは受け止めよう。しかし、青柳が先発の柱である限り、やはり阪神は優勝できなかった。

 今年の初め、青柳で鷹の森かモイネ口が獲れないものかと言うと、仲間内でえらく反発を食らった。真剣に売り時との判断と、こちらとしてはJOKERのレッテルを貼った手前、そう言い続けるしかないという部分もあった。

 結局青柳並みに勝ち星を計算できる投手が見当たらない、そう言われて引き下がった。才木や西純が成長してもそれは無理というのが大方の意見。だが開幕し蓋を開けてみれば、青柳は不調に陥りその穴は村上と大竹で塞がった。そして阪神は優勝目前で、青柳はここまでまだ五勝。糸原同様、やはり彼もJOKERであった。

 青柳は投げてみなければ判らない投手、たとえ二桁勝っても二桁負ける、というのがJOKER扱いした理由である。昨年13勝4敗の最高勝率投手に対して実に失礼な言いがかりであろう。

 しかし、その成績を額面通り受け止めるほど私は甘くない。たとえば先々週だったか、ヤクルト戦に青柳がマウンドに立つと、山田、塩見が先発から外れた。体調がよろしくない、というのもあったかもしれないが、それ以上に二人が試合に出るのを嫌がった、というのが本当のところであろう。

 それは言ってみれば選手の我が儘であり、本来であればマネジメントとして監督が諌めるべきだ。WBC決勝戦のスタメンを張った山田、そして前日ホームランを放った塩見。ファン目線で言っても、必ず試合に出て欲しいチームに不可欠な選手。しかしてその日、二人の名はスタメンにはなかった。青柳を苦手にしているだけだとそのまんま受け止め、われわれ阪神ファンは、ラッキーで片づけて良いものか・・・・ ?

 高津監督に二人をスタメンから外すという苦渋の決断をさせたもの、それは青柳との相性だけではない。恐らく対戦後数試合の成績もデータとして添えられて、そこに至ったのだろう。つまり二人は青柳と当たると、その後必ずバッティングを崩すので、今日は勘弁してほしい、そういうことではなかろうか。

 実は他にもそういう選手がいる。広島の菊池がそうであるし、 巨人の坂本も今年の状態なら無理はしないだろう。

 なぜ彼らは青柳を避けようとするのか。青柳が投じるボールの威力が特別で、打者の脳裏に一度焼き付くとその後数試合離れない、まさに魔球の使い手だからか? そうではない。確かに青柳のスライダーやシン力一は絶妙である。しかし並みより少し上の投手のそれでしかない。実際、調子が悪かったのかもしれないが、二年前の東京五輪では、たかだか3Aの打者につるべ打ちを食らっている。なんの先入観もなければその程度。

 では青柳の本当の恐ろしさとはどこにあるのか・・・・。それは打者優位の力ウントで右打者の背中を通すという、まさに荒業を平然とやってのけるところにこそある。また、それをしてさえ、いかんいかん、ごめんごめんで通す度胸。しかもあの憎めないキャラ。それらが相俟って多くの右打者が青柳を嫌になるのであろう。

 打者というのは、頭はもちろんだが、肩や腰にぶつけられるとフォームが文字通り崩される。まるでラーメン屋のスープのように、何年もかけてやっとの思いで辿り着いたものが、たった一球で狂わされるとしたら・・・・。考えるだけでも恐ろしい。

 しかも当たらなかったからいいでしょ、という態度。しかもまったく改善もしていない。恐らく本人も何故そこに行くのか判ってないし、判ろうともしないので今後も変わらん。それで飯食ってるし、って感じ。まさに悪意のない東尾! あれでは青柳にピッチャーライナーをぶつけてやろうと狙うような打者も現れないであろう。

 こういう投手がエースのチームが優勝することはない。しかし矢野は青柳こそエースだと持ち上げた。一方岡田はそのあたりを心得ている。今年の開幕も確か6回で早々と交代させた。青柳は信じられない、といった表情で憮然としてマウンドを降りた。岡田からすれば、よーいどんで相手に迷惑を掛けるわけにはいかない、当初からなるべく早めの交替を考えていたのであろう。先日のヤクルト戦では5回でスパッと変えている。

 先ほどピッチャー返しを狙う打者の話を書いたが、それは東尾に対する落合である。落合は何度も東尾からビンボールを投げられたが、逃げることはしなかった。恐らく東尾からそういった厳しい攻めをされてさえも、打撃フォームを狂わされることはなかったのであろう。なぜか? それはある種の信頼が二人の間にあったからだ。残念ながら青柳と打者の間にそれはない。だから逆に狙われることもない。一方的に避けられるだけだ。

 打者は投手と対戦する時、配球以外は考えない。デットボールがあるかも、というようなノイズは、基本頭に入れない。しかし青柳相手だとそれを強いられてしまう。しかもアドバンテージとなっている。だからたとえ最多勝に輝こうとも彼をエースとは認めないのだ。

 ではエースとはなんだ・・・・?

 エースとはチームの顔。それ故、自然 ”格” というものが求められるのではないか。今の青柳を、いや、仮に去年、一昨年であってもその ”格” が、彼にあったとは思えない。右打者の背中を通すような球を、わざとならまだしもストライクを狙ってもそこに投げてしまう、そんなエースはいない。

 自分が先発すると判った途端、今日は試合に出ません、そう相手チームの主軸に言われるのは屈辱以外の何物でもない。それを恥いる気持ちがあれば、少しはコントロールが良くなるはずだが、今の青柳にその気配はない。

 岡田はこれから青柳にどんな役割を与えるのであろうか? 適材適所、その言葉を噛みしめて青柳の次の登板を持とうと思う。