Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

コロナ閑話

 <今回のお品書き>

 

 

バースの”私”とクロマティの”オイラ”

 本題であるコロナの前に少し昔話を、それも野球の話で恐縮なのですが、昭和晩年の1986年、阪神、巨人はともに優勝を逃すわけですが、両球団の外国人選手、バースとクロマティが超ハイレベルな首位打者争いを終盤まで繰り広げました。興味のある方は二人の成績を調べていただければと思うのですが、ここでご紹介したいのは、その両助っ人による熾烈な争いをテレビのプロ野球ニュースかなんかの特集で取り上げられた際の、二人の扱われ方なのです。

 

f:id:TailEnder:20200520202941p:plain

 二人は別々に取材され、インタビューを受けてその中で、共に認め合う関係だからこそ負けられない、みたいなことが語られていたと思います。
 放送内容はそれぞれが英語で応じ、通訳を間に入れるのではなく同時に声優だかタレントのアテレコを日本語で重ねる形で仕上がっていました。
 バースのはこんな感じ。
 「私はいつも投手の投球データを分析し、配球を読んで打席に立つよう心がけています。チームの勝利につながるバッティングを続けることで、シーズンが終わった時、結果としてクロウ(クロマティの愛称)を上回っていればいいですね。」
 すごく知的で爽やかな声で、スポーツ選手というよりも弁護士か大学教授なんかを連想させるような日本語の吹き替えが入っていました。
 一方のクロマティはというと。
 「オイラはとにかく来た球を打つだけさ!奴とはマブダチだけど絶対に首位打者だけは譲れねぇぜ、まぁ、今日の俺のバッティングを見てくんなよ、最後にゃこの俺様が勝つってことが、きっとてめえたちにもわかるってもんだろうよ、じゃあな!」
 もうなんか・・・・、さすがに阪神側の私でさえ、おまえらクロマティのことバカにしてるだろ、っていう出来映えでしたわ(確かにクロマティのメディア対応には問題があったようだが)。
 なんていうのか、言葉や文章にはしづらいのですが、そういうのって恐らく今でもあるのでしょうね。つきまとっているイメージを、そのまま刷り込んで増殖させるっていう。それがわかりやすさに結びつきがちなので、番組の中の限られた時間で両者の関係性について伝えきるためには有効な手段なのかもしれませんが・・・・。
 でっ、その是非は置いておくとして、今回申し上げたいのは、それって我々の側に得てしてすでにある場合が多いってことなのですよ。つまり我々がいつの間にか飲み込んでしまったイメージを、メディアが触発し利用し誘導しようとしているのは間違いないにせよ、我々の方でも勝手に作り上げていないか、つまり共犯とは言わないまでも、その片棒に手が触れてはいませんかってことなのです。

 

スウェーデンとブラジル

 みなさんはスウェーデンブラジルというと、どういうイメージをお持ちでしょうか?例えば極端なはなし、小学校高学年の子供(女の子)に一人旅をさせるとすればどちらに行かせましょう?
 正解などないので我ながら意味がなかったと思うのですが、一般的なイメージとしてスウェーデンは北欧の福祉大国EUきっての優等生って感じ、一方、ブラジルはといえば、情熱の国、年中サンバで明るく盛り上がっていそうですが、反面、治安は悪い、そんなイメージをお持ちではないでしょうか?私がそうです。
 でっ、ここからが本題なのですが、実はこの二つの国が、新型コロナウイルスが猛威を振るうこの国難の状況下で、ほぼ同じ方針を打ち出しました。まぁ、同じといっても、文化や歴史、宗教、経済、国の規模も、周囲の国や置かれている状況もまったく違うので、どこまで同じといえるのかはお察し頂きたいのですが、少なくとも以下の二本の柱は同じです。
ロックダウン(都市封鎖)はしない
経済は止めない

 日本も厳密には外出禁止令を伴うようなロックダウンはしていませんが、先日までは全国に緊急事態宣言が出されていましたし、経済も止まってしまったといえる状況でそこかしこから悲鳴が上がっています。我々としても本音を言えば泣く泣く受け入れたこれらの方針を、きっぱりと拒否した男前なこの二つの国が、一体今、どのようになっているのか、実に興味のあるところです。
 ネット上に転がっていた両国についての記事を、時系列に並べてみましたのでご確認ください。

スウェーデン


□ ロックダウンしないという選択をしたスウェーデン…「基本的な行動規範に忠実なだけで効果はある」 (4/2)
□ 「封鎖せず」独自路線 自主性尊重、「集団免疫」目指す―スウェーデン・新型コロナ (4/24)
□ 異例の新型コロナ緩和対策奏功 国民に責任行動を促したスウェーデン  (4/27)

□ 厳格な行動制限設けないスウェーデン、新型コロナ対策は成功したのか (4/29)
□ 感染拡大でも休校なし、休業なし「壮大な社会実験」のスウェーデン、人々は今。 (4/29)

□ 「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に (5/1)

□ コロナ封鎖なしで集団免疫に王手。データで見るスウェーデンの今 (5/5)

□ スウェーデン新型コロナ「ソフト対策」の実態。現地の日本人医師はこう例証する (5/7)

□ コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当局の科学者「恐ろしい」 (5/8)

□ 「子どもを大切にする」政府…コロナ死亡率増でもスウェーデン国民が「信じる」理由 (5/11)

コラム:「スウェーデン流」コロナ対策をマネできない理由  (5/13)


ブラジル

 

□ ブラジル大統領ロックダウンを拒否「どうせ誰もがいつかは死ぬ」 (3/31)
□ ブラジル大統領 “新型コロナの脅威軽視”で批判高まる (4/10)
□ ブラジル大統領が「自己隔離」ならぬ「自己孤立」 (4/15)
「国民7割新型コロナ感染、どうしようもない」 ブラジル大統領、経済再開呼び掛け  (4/19)
□ ブラジル大統領が州政府の都市封鎖を非難 支持者の集会でマスクせず演説 (4/20)
□ 5千人死亡「それで?」 コロナ軽視のブラジル大統領 (4/29)
□ ブラジル、コロナ死者1万人超え 大統領は記者をばか扱い (5/10)
□ ブラジルが新たな“震源地”に 経済重視の大統領が「最大の脅威」 (5/12)
□ 《ブラジル》コロナ死者1万1519人=営業可能な業務拡大の大統領令=17州知事従わず (5/13)
□ ブラジル、新型コロナ感染症による1日当たり死者数が過去最多に (5/13)

 それぞれの記事の内容については皆さんで読んで、そして感じていただければと思います。
 同じ方針を貫くこの二つの国が、ここまでどのような過程を経て今に至ったのか・・・・、流れとしてはタイトルからでも読み取れると思います。

 まずスウェーデンについては、4月の下旬ごろまでは”さすが”という雰囲気だったのが、5月に入って実際に感染者と死者の数が事実として積み上がり、”おいおい”となりはじめ、しかし今月の中旬からは改めて”まぁ、それでも”となった、そんな感じでしょうか。
 ブラジルはどうかというと、終始一貫して、”あそこの大統領は正気か?”といった内容。記事の中にもありますが、「私にどうしろというのか」と言い放ったり、特に新型ウイルスを「ちょっとした風邪」と切って捨てたあたりから、記者たちの見据えている方向は定まった模様。
 この後も何度も申し上げますが、この二つの国、やってることはほぼ同じなのですけどね。 

二国の違いはどこに?

 ではここで実際の数字で両国を見てみましょう。 

f:id:TailEnder:20200517022757p:plain

www.worldometers.info
 worldometersの5/13の数字からみると、人口10万人あたりの感染者数も、死亡者数もむしろスウェーデンのそれがブラジルのものをかなり上回っているのがお判りかと思います。記事が意図するところを組むならば、一方は自主・自立が尊ばれる大人の王国、もう一方は裸の王様が仕切る修羅の国、であるというのに意外な感じがいたします。
 ただ、スウエーデンについてはいろんな裏事情があるのだとも記事は語ります。特に現地在住の日本人医師と翻訳者兼エッセイストから多くの反証が挙げられており、曰く、「新型コロナ感染者は、新型コロナ感染で死亡しなくても、感染が確認されていれば、病名として記載されます。ですから、新型コロナで死亡した数だけカウントしていたり、検査されてないが新型コロナで死亡したであろう死者数がカウントされていない他の国に比べて、何割増しかになっている可能性があります」とのこと。
 また、「死者の数でいうと、80歳以上の死亡者は全体の64%、70代以上で見ると87%。つまり、高齢者の感染リスクが高く、犠牲者のほとんどは70歳以上です。これは、公衆衛生局も認めたとおり、高齢者施設でのクラスター(集団感染)発生を防ぐことができなかったことによるものが大きいです」。更に、スウェーデンの死亡者数の大部分を占める高齢者、特に高齢者施設に暮らす高齢者の死亡は、施設における感染対策の失敗が直接の原因です。ロックダウンしなかったこととはあまり関係がないですね。 ちなみに、日本で同様に10万人あたりの年齢別感染者を調べてみると20代から50代が最も多く感染しており、高齢者層は低めと、スウェーデンとは逆になっています。両国とも高齢者は自己隔離をしているにも関わらず大きな差があるのは、繰り返しになりますが、スウェーデンの高齢者施設でのクラスターが原因」なのだそうです。
 つまり、
 スウェーデンにおける新型コロナの死亡者数は幅広にカウントされている
 また高齢者施設でのクラスター(集団感染)の発生があった関係で、どうしても多めの数字が出る
 だから、ロックダウンしなかったこととはあまり関係がない
 無暗に記事の中身の切り取りや私の文責によるまとめは避けたいのですが、あえてしてみました。

 逆にブラジルは連邦制なので、大統領の方針を無視して主要な州は知事自らの権限と判断でロックダウンを実施しており、その効果が表れたのか、結果的に数字は大統領がアレの割には少なく出ているようです。
 また、そのお国柄から申し上げるなら、感染者数も死者数も表に出てこない数が相当眠っているのでは、と睨んでいます。なので、そのあたりを差し引くと新型コロナによる被害の程はどっこいどっこいなのではないでしょうか。
 まぁ繰り返すようですが、やってることはほぼ同じなわけですから、そうなりますわな、普通。そういう意味では、スウェーデンもブラジルも等しく深刻な事態に陥っていると言えるのです。
 しかし、この二つの国を伝える記事は、その描かれ方というか、文章から伝わってくる温度感、質感がまるで違うのですよね。

 

トップの条件

 スウェーデンは疑義が示されるも、現方針を見守ろうかな、って感じであるのに対して、ブラジルについてはロックダウンを拒否するのは無謀だと決めてかかっています。
 さらにスウェーデンについては、経済を止めなかったその成果についても記事は取り上げています。
 曰く「経済的な犠牲を小さくした代償として、他の北欧諸国やドイツよりは新型コロナ死者全体数は多い。とは言え、少なくとも経済面では、こうした「賭け」は功を奏した。第1・四半期の国内総生産(GDP)は前期に比べてマイナス0.3%と、ユーロ圏経済の落ち込みの10分の1に満たないと。
 また先のスウェーデン在住の日本人医師と翻訳者兼エッセイストからも、「散歩などの外出は健康のためにむしろ奨励されているし、店やレストランも営業している。テイクアウトをする人は増加したが、他の人との距離が近すぎないかぎりレストラン内で食事することもできると報告されています。さらにこの方針については揺るぎはなく、「ヨーロッパ諸国からの同調圧力についてはまったく意に介していないように見えます」とのことです。まったくもって男前です。
 一方のブラジルでは経済を止めなかったことで何かを得たとか、そういったことは報じられていませんが、「我々は働きたい」として、サンパウロ州で州政府が実施している隔離措置に反対するデモが行われているのだとか。でもそれは一部の大統領支持者を中心に行われたもので規模も小さいのだそうです。
 ぶっちゃけ正直いうと、両国のその国民が本当のところどう感じているかは記事だけでは分かりません。しかしネット上の記事を眺めながらはっきりといえることがあります。もうおわかりのこととは存じますが、それは、抗コロナで結束しようとする国際的な紳士協定の足並みを乱したこの二つの国に対する報じられ方があまりにも対照的である、ということです。一方は概ね好意的に受け取られ擁護に溢れていますが、もう一方は新型コロナの脅威を軽視しているとして痛烈に非難の的になっているのです。
 三度目になりますがあえて言います、この二つの国がやってることはほぼ同じです。
 記事を通じてもう一つ一貫して伝わってくるものがあります。それはこの二つの国のトップの扱われ方です。

 ブラジルのボルソナロ大統領は、「どうせ誰もがいつかは死ぬ」、「コロナ感染、どうしようもない」 、5千人死亡「それで?」、のコメントや、終始記者を馬鹿にした対応を取ることもあってまさに叩かれ放題。彼の存在が「最大の脅威」なのだと結論付けられ、ニカラグアベラルーシトルクメニスタン独裁者と同等に扱われるほどなのですよ。一応、正式な選挙で選ばれているというのに、です。
 一方、スウェーデンのロベーン首相の姿は記事からはあまり伝わってはきません。彼が国内の専門家から呈された苦言や疑問を拒否したにもかかわらず、です。
 すべては自身のお人柄に帰結する以上、ボルソナロ大統領においては自業自得であることに異論はございません。苦しむブラジルの皆様には、次の選挙は考えましょうね、とだけ申し上げておきます。

 国のトップとは自らがどれだけ罵られようとも、最終的にはその国を正しいところへ導くことのできる実務家こそが求められるべき、と個人的には考えます。今後、新型コロナが二つの国に残した爪痕の深さ次第では、二人とも民衆によって等しく高く吊るされることがあるやもしれませんね。
 最後になりますが、記事を読み進める中でボルソナロ大統領への擁護に出くわさなかったことには、一種の清々しさすら感じました。ブラジルにも在住の日本人医師翻訳者兼エッセイストはいるでしょうに、そんな声が上がって来る気配はまったくなく、少し寂しく思えた次第です。

 

今日のおまけ(共産党が証明する都内の感染死者数の信憑性)

 緩いロックダウンしかしていない日本に対しても、海外からあまりよくない眼差しが向けられていることには薄々感づいてはいましたが、ここに来て、以下のような記事が見られるようになりました。

□ 欧米メディア「日本は大流行回避」 緊急事態宣言一部解除で  (5/15)

 米ウォール・ストリート・ジャーナルは、日本の対応について「理由は不明だが比較的成功した」と指摘したとのことです。検査者数の少なさからか、謎扱いされている模様。おそらくは国内においても、もっと検査しろや、という不満の声は大いにあるでしょう。事実、こんな記事もあります。

□ 日本の指導者、国民評価で最下位 コロナ対策の国際比較  (5/8)

 これについては次の機会にやる予定です。

 また、感染による死者の数をごまかしているという噂も根強くあります。東京では10倍、とか言っているタレントもいるようです。しかしあえて申し上げます。それは絶対にない
 その根拠は、あまり知られていませんが、この国には全日本民主医療機関連合という共産党系の組織があり、病院、診療所、訪問看護ステーション、特別養護老人ホームなどを手広く運営しており、合わせて1,700以上の拠点がそれこそ全国に点在しています。
□ あなたのまちの民医連・事業所一覧(東京都)

 都内だけでも気を失いそうになるぐらいあります。私も東京に住んでいた頃すぐ近くにあって何度も通いましたが普通の病院で、非常に親身に診ていただけるので、風邪くらいならそこに行ってました。特段問診票以外、変なアンケートを受けることもありませんでしたし。人を見てそれをするのかもしれませんが・・・・。
 これらの拠点は別に周囲から孤立することはなく、地域のコミュニティとしてインフラの一部に組み込まれ機能しているので、もし、少しでもコロナの疑いがある患者が肺炎で亡くなられて、それをそのまま肺炎として闇に葬った病院があったりすれば、自然に彼らの耳に入り、結果として絶対に黙ってはいません。大問題だとしてチクっているはずです。つまり、彼らが騒いでいないところを見ると、少なくとも都内のあの死者の数字は正しい。あえて皮肉な言い方をすれば、共産党の牽制機能が働いているがゆえに、信憑性が高いといえるでしょう。小池晃書記局長兼元理事長さま、日本の清廉性は証明されました、ほんとうにありがとうございます。
 それを裏付けるような記事も出てきました。
□ 東京都内の死亡者数、新型コロナ感染症拡大局面でも急増見られず  (5/14)

 ようやく一段落つけるのかもしれませんね。

 ちなみにコロナ後のニューノーマルの担い手として世界標準となる予定のお隣さんの記事。

□ 韓国、出生児歴代最少・死亡者歴代最大…人口が4カ月連続で減少  (4/29)

 
 死亡者数が前年同月比で一割も増えたら、普通、何があったんだって、そこそこ大きな騒ぎになると思うけどね。しかも新型コロナの最も災禍にあった二月の数字だというのに・・・・。

 たぶん、青瓦台は色んな理由で取り繕って捻じ伏せ、全力で漂白したのでしょう。しかし、個人的に一番恐ろしいと感じるのはその上からの圧力以上に、この国の人たちが、そういった工作があったにせよ、一斉にこの事実に対して眼を瞑ることができる、その民族の力にこそあるように思うのです。本当に背筋が寒くなります。我々ごときは極力関わらないほうが良い、そう思えてなりません。

 

 最後に、冒頭のバースとクロマティ首位打者争いは、バースが終盤ぶっちぎり、史上最高打率でフィニッシュ!しかも本塁打、打点のタイトルも併せて手にし、見事二年連続三冠王で有終の美を飾ったのでした。めでたしめでたし。

f:id:TailEnder:20200517133931p:plain