Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

悪魔の囁き

 ウクライナの出口が見えない。
 極東の最果ての地に住むわれわれですらその混迷と甚大な被害に言葉を失うのだから、ヨーロッパの人々が直面している無力感は言わずもがなである。一緒に何かできることはないもんか、そう考えるのが人情というものだろう。

 とはいうもののよく、「シリアへの米軍の軍事行動を非難できないおまえらごときのウクライナに対する感傷なんぞ、いかに薄っぺらいものなのか判らないのか? ケッ!」と吐き捨て、さも正論のように取り繕った詭弁でマウント取ろうとする輩がいる。まだこういう手合いがいたのかと脱力するばかりである。
 「どうせウクライナ人が白人だからなんだろ!」 というのもよく耳にする。同様に閉口してしまう。
 シリアの内戦は軽くて、ウクライナへの侵攻は重いというのではない。シリアは中東だが、ウクライナはヨーロッパだろ、というのでもない。シリア内戦における米軍は、そこに数多いる用心棒の一人に過ぎず、プレイヤーのすべてが過ちを犯すカオスの中で、アメリカについてだけ論い非難することに正しさはあるのか? ウクライナとロシアについては、喧嘩両成敗で裁くべきだとでも言うのか? どうにもシリアとウクライナを同じ土俵に乗せたがる輩の言い分は、都合が良すぎるように思えて仕方がない。

 われわれ日本人の両国に対する思いをマザーテレサの言葉に託せば、「愛はまず手近なところから始まります」に尽きるだろう。手近というのは 距離や地域ではない。だいたい東京とNYの時差は13時間もあるのだし、北朝鮮へのコロナ支援などまっぴらごめんである。

 手近とはつまるところ、基本的価値を共有できているか否かだ。シリアには二代に渡る王朝が存在するが、ウクライナにそんなものはない。つまりはそういうことだ。
 それでも悲劇はウクライナだけではないんだぞ、そう物知り顔で食い下がる輩には、「マラリアによって命を脅かされ続ける、アフリ力、シエラレオネの赤ちゃんに対して君は何かしてるのかい?」真顔でそう問い返す以外ないだろう。

www.unicef.or.jp

 ウクライナについて続けるが、どうにも長期化する様相である・・・・。

 ウクライナでは各地で開戦当初から国土を護り続けた熟練の職業軍人が疲弊し傷ついていくばかりだという。 逆にロシアは腕に覚えのある猛者を、ようやく前線に送り込み始めたようだ。しかし彼らに与えられる武器の多くは半世紀も前のもの。一方ウクライナのやっとこさ銃の扱いにも慣れ始めたという頬も蒼白き兵士の手には、最新鋭の数々の兵器が・・・・。互いに決め手に欠く。まさに泥沼である。


 もしウクライナが負けるようなことになれば、それは人権を何よりの拠り所にする側が、人の命を軽んじる側に負けたことを意味する。これは由々しき事態だ。日本が前者の立場である以上、決して認められることではない。

 しかしロシアや中国のような専制主義の輩は、こちらの弱さを知り尽くしている。だからこそ、われわれはウクライナの戦況に心を痛めるのだ。この戦争には負けられない、日本人としてそう願う。シリアとウクライナを天秤に掛けるまでもないのはそれ故でもある。
 そんな中もうーつ心配されることがある。それは今、ロシアの人々が何を思うかだ。情報が統制されているとはいえこのご時世である、北朝鮮のようにはいくまい。プロパガンダ以外の国外の情報も、一通り世間に行き渡った頃合いではないか。そこから想像力を働かせれば、今後の自分たちの行く末についてもそれなりに描くことは可能だろう。
 果たして戦いに幕が下りた後、荒廃したウクライナの各都市を、誰がどうやって再建させるのか? そもそもそこにかって住んでいた人々には、何の瑕疵も罪もない。理由はどうあれ勝手にロシアが攻めてきて廃墟にしたのだ。普通に考えれば他人の家で狼藉三昧を繰り返したロシアが背負うことになるのが筋。つまりロシア国民が復興費用を責任を持って負うということ。彼らとてそれぐらいの想像はつくのではないか。

 となると自分たちがこれから稼ぐ毎月の給料の半分は持っていかれるのだろう、とか。暮らし自体はこれまでのままだが、ロシア国内の核弾頭は全て撤去の上で、石油やガスなどの天然資源の権益を丸ごとウクライナに引き渡す、とか。戦後の処理について、 多くのロシア国民がそれぞれに思いを馳せているのではないか。そして暗澹たる気持ちになっていることだろう。そこから逆算して、この戦争絶対に負けられない、そう思われるのが怖いのだ。
 今、ロシアの普通の人々は誰一人として爪の先ほどの傷すら負ってはいない。ウクライナの普通の人々とのあまりの乖離に慄くばかりである。この戦争の不気味たる所以だ。
 もうーつ気味が悪いのは中国の動き。もし仮に今の状況で停戦となった場合、ウクライナの膨大な復興費用を即座に用立てることのできるのは、ぶっちゃけ中国だけ。事実ウクライナと中国の関係も悪くはない。NATO入りを熱望するウクライナの差し出した手を、ヨーロッパは目の前で振り払った。その意趣返しがあるのなら中国には好都合。彼らは金を出す以上、時間はかかるが至極当然のようにウクライナを自分のものにするだろう。
 一方村八分となるロシアに対し、真っ先に手を差し伸べるのもまた中国。つまり結果的にロシアの西域への領土拡大の野望は成し遂げられるということ。その時ロシアは中国の属国になってはいるが・・・・。


 昨日今日の動きで一喜一憂すべきではないのだが、ロシアがウクライナの国土の二割を実効支配したとの記事もある。

www.bbc.com

 最初に大きく躓ずいたが、この戦果にはプーチンも胸を撫で下ろしていると思われる。それが証拠というわけではないが、さっそくトルコへ飛ぶのだとか。

newsdig.tbs.co.jp

 恐らくNATOへの揺さぶりを仕掛けるのだろう。結構余裕が出てきたか。
 同様に習近平も安堵しているのではないか。なんといっても今回の電撃的な侵攻からの一連の流れは、台湾進攻に向けて牙を研ぐ中国からすれば最適のシミュレーション。どうやら時間はかかるが行けそうだな、ぐらいに思っているかもしれない。ほんま涙ちょちょ切れですわ。
 一体全体、この先果たしてどうなるのか? 考えるたびに気分が落ちます。

 ここで一つ、今後の最悪のシナリオを悪魔の囁きの如く記してみる。
 まず私かプーチンならば、NATO、特にアメリ力に勝とうとするよりも他の手を探すだろう。たとえばアメリ力だけをターゲットにして、嫌がらせに徹するというのどうか。韓国が日本に対してよくやるやつ。つまり自分の正しさを主張するのではなく、アメリ力の黒さをアピールする、そういう戦法に切り替える。
 実際、今回のウクライナ侵攻、というか戦争は、アメリ力に責任があるとする識者も一定数いる。特にエマニュエル・トッドとジョン・ミアシャイマー。まぁトッドは良いとしてもミアシャイマー、あんたが言うたらあかんやろ、晩節汚した、正直そう思ったがこればかりはどうにも。
 言い分としてはNATO東方拡大の代償ということなのだろうが、確かにこういう言説は世に溢れている。プーチンとするならば、それらを追い風に、「本当はアメリカこそが悪いんや!」、そう言って回って少しでも賛同者を得たいところ。

 ではそれを喧伝するにあたって、最も効果的、且つ効率的な舞台装置とは何か・・・・? 恐らくそれは朝鮮半島ではないか、個人的にそう睨んでいる。

 続きは明日以降で。