Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

ドラフト雑感:早川隆久編

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 今年のドラフトの傾向として、”旬な選手”に対する偏り、特に上位にその傾向がみられると以前書きました。まぁ、それが良いことなのかそうでないのかは三年ほど時間が経たないとわかりません。だから指名する側される側、どっちが得した損した、というのではありません。ただ一つ強烈に感じるのは、コロナの影響によって、選手の評価に対する連続性というものが失われた、これはあるのではないでしょうか。

 たとえば、大学社会人の場合、去年の秋猛烈に良かった、しかしながら今年の春以降は調子を落としている、そんな選手に対して、例年ならば去年の評価が活きた、そんな気がするのですよ。しかし今年はコロナによる公式戦自粛・延期のブランクが長すぎて、去年までの積み重ねを評価する側もなかなかそれを認めていられなくなった。もっといえば、今年に入ってからの真剣勝負の場がドラフト直前の一月とちょっとだけだったので、そこでアピールできた選手を恨みっこなしで上位指名するしかなかった、ということかもしれませんね。

 今回指名漏れした選手に落ち度はありません(ただし田澤を除く)、すべてはコロナが、そして中国が悪いのです、ええそうですとも、一緒にあの国を恨みましょうよ! 嗚呼、何から何までムカつくぜっ!

 

<本日の旬な男>

  今年度アマチュア最高投手 早川隆久 (早稲田→楽天)

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 高校時代はモッサリしていたのですが、四年間都内の大学(仮に所沢であっても、そこは所在地ですから)に通うと変わるもんですな・・・・。見違えるぐらい男前になっています。ハンカチは勘違い発言が多く性格の悪さも漂っていたし、額も後退していましたが、こっちは清潔感溢れる二枚目、髪もハリのある剛毛で禿げる心配はありません。仙台の女の子はほっとかないでしょうな。マジで楽天、来年は女性ファンが増えると思いますよ、ええ。

 ぜひともパリーグ人気を更に押し上げて欲しい! 東北から一つのムーブメントを作って下さい、そう心の底から願っています。それが現実のものとなるかどうか、すべては彼の左腕、特にその肘に掛かっていると言えるでしょう!

 ・スライダー回転=凡人

 でっ、いつものようにここでかなり脇道に逸れるのですが、その昔、というかもう四十年以上前の話で恐縮なのですが、確か水原茂氏がある雑誌でこのようなことを語っていました。

「もし自分の子供とキャッチボールをして、その子のボールがスライダー回転だったら、ぜひ野球を続けさせなさい。」

 確か、文芸春秋社の「人物・日本プロ野球」だったと思ったので、嫁に嫌がられながらも旧い雑誌を必死の思いで引っ張り出してきて、さっき読んでいたのですが、残念ながらその記述が見つかりません・・・・。

www.mercari.com

 どの雑誌だったのだろう。Numberの旧いやつかなぁ・・・、出典がはっきりしなくて申し訳ない。とにかく私の記憶では水原氏、そう仰っていたのですわ。

 当時、野球少年だった私はそれを読んで、ということはシュート回転するようでは見込みがないということなんだなと思いました。実際、50m近く離れて遠投のキャッチボールをしてみると、私を含めてほとんどが子のボールがシュート回転するのでした。それを確かめながら、何となくですが、”俺ではあかんねやろな・・・(ポツリ)” そう子供心に思ったのをはっきりと覚えています。

 というのは、誰もが投球動作の過程でボールをリリースした直後、無意識のうちに腕を逆側に捻っているのです。つまりシュートを投げる肘の切り方になっている。だから、ボールの縫い目に指先をしっかりと掛けて、そしてリリースの際にそこに意識と力を集中することなく、もしくはそうすることができず、ただ何となく漠然と投げているだけだと、ボールは自然シュート回転するのです。

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 上の佐々木の画像で、ボールを放った直後の小指が上を向いているのが判ると思うのですが、これは何も佐々木がシュートを投げたのではありません。握りの通りフォーシームを投げた、その投球フォームの分解写真なのです。

 ・チェンジアップの甘い罠、早川は・・・?

 でっ、何が言いたいかと言うと、つとに近年投球動作の解析が盛んになって、最も投手に負担の掛からない投げ方や球種というものが研究され、その答えの一つがチェンジアップではないかと言われるようになったのです。

 私なんかがやっていた頃のチェンジアップというのは、俗に”OKボール” と言われ、親指と人差し指で”O” の文字を作り、残りの三本の指でボールを握るというものでした。今は人差し指と中指、薬指の三本で握るものや、小指も含めて浅く鷲掴みにするもの、往年のパームに近いものまでいろいろとあるようですが、とにかく腕の振りはストレートと同じで良いのだとか。つまり、普通に投げればその過程で腕の振りとは逆に肘が切られるものなので、それを利用してチェンジアップを投げれば良い。だから肘や肩への負担が掛からないし、投球フォームで球種が読まれることもない、まさにチェンジアップは良いこと尽くしのボールなのだとか。ホンマかいな・・・・。

 ここでようやく早川に戻るのですが、彼の最大の決め球は巷で評判のMax155キロの快速球ではなく、チェンジアップだと個人的に感じています。特に右の強打者への対応は、来年の活躍の鍵を握ると思われるだけに、言わば命綱となる球種。効果的なフォークがあればと思うのですが、現段階では目を見張るものではない。となるとその依存度は自然高くなる。

 恐らくですが、決め球としてだけではなく、カウントを整えたり球種を絞らせないためや、ストレートをより速く見せるためにも使いたくなるボール。すると投球割合も当然高くなる。早川君の肘、肩への負担は本当にないのか・・・・?

 先ほどチェンジアップはストレートと同じ腕の振りで投げられる、と書きましたが、私は一貫して懐疑的です。もし本当にそうなら、もっと多くの投手が、多くの場面で投げているでしょうし、ならば我々の記憶にも、もっとその球種が刻まれているのではと感じるからです。つまり、それがないということは、チェンジアップにはそれほど多くの場面では投げられない何かがある、そう勘繰りたくなるのです。

 ・井川と松井、両左腕の場合

 新世紀最初の阪神のエース井川は、03年に20勝を挙げMVPを獲得しましたが、チェンジアップを決め球にしていたのはその前年までで、以降どんどん減っていき、メジャーへ移籍する直前はほとんど投げず、むしろスライダーを多投していた印象があります。

 早川の先輩となる楽天の松井も先発に転向した今年、ほとんどチェンジアップを投げていないはずです。彼の場合、高校時代はスライダー投手でしたが、プロ入り後クローザーに転向したのを機に、右打者に触らせない球、つまり空振りが獲れる球種が必要になったためチェンジアップを決め球にするようになった変わり種。その彼が今年何故チェンジアップを捨てたのか・・・・?

 恐らく二人とも肘、肩への負担が酷くなった、もしくはそれが危惧されるので投げなくなったのだと思います。結局のところ、威力のあるチェンジアップ=途中まではストレートの軌道できて打者の手元で落ちる、を投げようと思えば、強い腕の振りをそのままに、ボールをリリースする際に小指、もしくは薬指側から抜いてやらなければならないため若干手首を捻ることが必要で、それは肘や肩への負担に確実になると個人的には考えています。

 いやいや、そもそも松井はスライダー投手からチェンジアップを決め球にする投手へとわざわざ好き好んで転向したんだろと、肘、肩への負担があればそれはしないだろ、というご意見あろうかと存じますが、彼の場合は特殊で、奪三振率が高いのでクローザーに抜擢されたのですが、彼のスライダーがたとえ浮き上がってから落ちる威力抜群のシロモノであっても、左投手のそれならばプロの右打者は当てます。彼の出番となれば対戦相手には続々と右打者ばかりが出て来るし。クローザーにとって一番困るのは当てられて球数を投げさせられることです。なので、チェンジアップを取得したのでしょうう。

 1イニング限定で球数は10~15球、そのうちチェンジアップはMax5球ぐらいでしょうか。ならばと肘、肩への負担覚悟で決め球をチェンジアップに変えた、というのが私の見立てです。

 しかし先発となると、毎試合100球で少なくとも5~6イニングは喰ってくれ、となりますから、もしその3割チェンジアップを使うとなると30球・・・・。クローザーの一週間に四試合で都合20球と、先発で一週間に一度の登板で30球、どっちがキツイかは判りませんが、とにもかくにも井川、松井という両左腕先発投手はチェンジアップを投げなくなったということなのです。

 また近年出色のチェンジアップの使い手であった若松(中日)のケースも気になる。高卒三年目で先発の一角に割って入り見事二桁勝ち、防御率は実に2.12。しかし、結局故障でそのわずか三年後に自由契約・・・・。まぁ、怪我以外にもいろいろとあったのでしょうが、チェンジアップの多投が引退を早めた原因に思えてなりません。

 ・一年目の早川の注目ポイントは?

 来年早川は当然開幕から先発で行くでしょう。となると投球数全体に占めるチェンジアップの割合が最大の注目点ですね。正直、目下のところ表向きのセールスポイントはMax155キロのストレートですが、プロ入り後150出ることは滅多にない(所詮神宮球場との合わせ技)でしょうし、2400回転というのも質が良いとは言えますが、スピンの効いている球かと問われれば疑問。となると右打者には、そのストレートの撒き餌としてもチェンジアップを使いたくなるはず。するとますますチェンジアップを投げることとなり、しかしそれを多投すれば彼の肘は悲鳴を上げる。

 でも連休明けまでは早川のポテンシャル通り活躍するとは思います。ですがシーズンが中盤に差し掛かってもチェンジアップの割合が高いままなら、オールスター明けには悲報が待っているかも・・・・。

 じゃあどうすりゃ良いのかと言えば、スライダーでしょ。個人的には早川の場合、ストレートよりもスライダーの方が威力があると感じるので、幅よりもいかに縦に落ちてくれるかではないかと。スライダーが右打者に対しても機能すれば、自ずとチェンジアップの球数は減るとも思うのです。

 まぁ、早川をチェンジアップ投手だと決めつけてかかるのがそもそもの間違い、という向きもあるのでしょうが、少なくとも去年、そして今年の秋の彼を支えた球種、それは紛うことなく魔球チェンジアップだと私は思うのですよ。

2021年度 早川隆久 7勝6敗 防御率4点ぐらい ※新人王は別の投手だと思います