Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

スカウトの罪と罰

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 前回真中元監督について書きました。彼が個人的なタニマチ企業(球界とはほぼ無縁)のチーム(軟式野球)に所属する選手をドラフトで下位ながら本指名し、更にその裏でいろいろとあったことで、球団はスカウトに対して示しがつかず機能しなくなり、結果的に今日の低迷に繋がっている、というような内容でした。ちょっと判り難かったと思うので少し補足してみます。

<本日の罪と罰>

 

 スカウトってどんな組織

 スカウトというのは人数としてどのぐらいいるのかというと、例えば阪神の場合、担当レベルのスカウトが9人います。管理者は3人。担当スカウトはそれぞれ地区を持っています。だいたい全国を七つか八つに分けて、それぞれの地区を担当します。地区を持たないスカウトもおり、遊軍となってその年最も逸材が揃ったと思われる地区のサポートをします。まぁ、そんな感じです。

 ドラフトで本指名される人数はだいたい6名ぐらい。多い年でも普通8名まででしょ。支配下選手の数には限りがあるので、当然指名した人数だけクビにしないとなりませんので、そんなに多くは指名できないのです。

 先ほど、全国を七つか八つに分けて担当のスカウトがいると書きました。ってことはって話になるのですが、平均指名者数を6名とすると、万遍なくスカウトが各地域から選りすぐった選手をそれぞれ一人ずつ指名する、としたら足りなくなります。ドラフトは傍から見る分には”運命の一日”としてクジがクローズアップされがちですが、現場の観点から申し上げると、椅子取りゲームのようなものだと考えて下さい。

 しかも、前回紹介した真中元監督のケースである2016年度のドラフトの場合、恐らく、ただでさえ限られている指名の枠を、言い方は良くないですが監督が自らの立場を使ってスカウトから奪ったことになるわけで、まぁスカウトにとっては不満の温床となりかねないでしょうね。ただ、こういうケースはたまにあるのです、ええ。

 できた監督の場合、親会社の偉いさんに直談判して、その年のドラフトの枠を特別に増やしてもらったうえで、その分契約金等の予算も多めに措置してもらう等の地均しを事前にするものなのですが、真中元監督がそれをしたかどうかは判りません。故星野氏はどの球団でもそれをしていたものです。

 スカウトが抱える矛盾

 また、指名枠を監督やチームの首脳陣が掠め取った云々は置いておくとして、スカウトが推薦した候補選手が、結果的に指名に至らないというケース自体は、先に挙げた通りドラフトというものが本質的に椅子取りゲームである以上、必ず起こってしまうわけです。ヤクルトのケースで言えば、今年も中四国のアマチュア選手を指名していませんので、岡林スカウト課長が推したであろう選手は、残念ながら二年連続して指名されなかったってことになります。(余談になりますが、阪神が今回8位で指名した石井投手(四国IL/高知)は、岡林スカウトのお膝元であり、獲ろうと思えばヤクルトは7位で指名できた(本指名は6位で切り上げ)はず。私個人的にはドラフト中位相当の投手と見ており、いわばお買い得だったと思っています。岡林スカウトの石井評が知りたいところです。また、ヤクルト球団の岡林スカウトへの信頼は薄らいでいるとも感じる・・・・。

 さらに言えば、ドラフトにはクジやウエーバーによる順番があります。なので、スカウトが何年もかけて追い続け、指導者どころか親にまで挨拶を終え球団の了承も取り付け、いわば下交渉まで済ませた、そんな手塩にかけた選手を目の前で他球団に持っていかれるようなことも、毎年どこかの球団で起こっています。これもドラフトのドラマの一つと言えるでしょう。

 さすがにそんな目に遭うと脱力感に襲われてしまい、次の一年ぐらいは適当に流そうか、となるのだそうで、まぁそれについてはある程度理解できます。でも、そこで踏みとどまるのがそのスカウトの矜持というか、一人の人間としての仕事に対する責任感だとも言えます。

 しっかし、である。真中前監督のケースがまさにそうであるとまではさすがに言いませんが、もしチームの首脳陣の一人が、事前に球団に掛け合い指名枠や予算を増やすような工面をすることなく、ただ指名枠をスカウトから奪い、更に、指名した選手の所属する企業から高額のお礼をキックバックとして懐に入れていたら、そしてそれがスカウト達の知るところとなったらどうでしょうか? これはスカウトからモチベーションだけではなく、モラルも併せて奪うことになりかねません。

 ますますもってやる気が失せて、真剣に来年からは好きにさせてもらうわ、となるのではないかと。そもそも球団にスカウトの管理などはほぼ無理です。定期的にレポートの提出を求めている球団もあるそうですが、そういうのも日々の活動内容を証明するものではないので、いわば野に放たれたのを良いことにして、サボったり、監督がやってるんだから俺も、となるスカウトが現れても不思議ではないでしょうね。

 スカウトの存在意義とは!

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 岡林スカウトが真面目なスカウトであることは前回もご紹介しました。しかし同時にその適正について疑問を呈させてもいただきました。それは彼が指名した選手がその後どうなっているのかを調べればわかることです。でも、スカウトの多くは担当した選手が一軍に定着しないのは、コーチの指導に問題があると言い切るのが常です。もちろんコーチにも言い分があります。球団としてはそこは悩ましいところなのですが、ただでさえそのように検証しにくいところに、将たる監督が、新人選手の指名を巡って怪しいことをすると、それは結果的にそれを許した球団の責任でもあり、スカウトもコーチもその甘さを突くでしょうから、組織はどんどんユルくなってしまう・・・・。つまり、仮にスカウトに問題があったとしても、それを追求できるべき立場というか、そんな資格のある方が球団内にはいなくなってしまうのです。

 今のヤクルトの低迷の原因は、そのあたりにあるように思えてなりません。

 私はスカウトこそがチームにとって生命線を担っている、というよりも、もっと端的に ”生殺与奪”、つまりチームを生かすも殺すもスカウト次第なのだと思っています。

 それは贔屓チームである、我が阪神タイガースの長い暗黒時代(1987~2001年まで)が、その助走期間(1977~)も含めて、すべてある一人のスカウトの手によって創り出された作品だと確信するからです。この話についてはそのうち書ければと思っています。