Till Eternity

どこよりも遅く、どこよりも曖昧に・・・・

さらば 福岡堅樹 !

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 先日、福岡堅樹が7人制代表からも引退することを発表しました。東京五輪では間違いなくアイコンになりうる選手の一人でした。事実上、日の丸を背負う福岡の姿を、我々は二度と観ることができなくなったのです。

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<本日の内容>

 

福岡の進退が物語る五輪開催の可能性

 一報がヤフートップを飾ったのはもちろんですが、土曜正午のNHKのニュースでも取り上げられました。感慨深いものがありますね。とても一言では言い表せない、いろんな思いが心の裡を駆け巡りました。

 決して悲しいばかりというのではないのですよ。その中には意外にも嬉しい、というのもあったのです。だって土曜正午のNHKニュースって、確か15分ほどでしょ。そのうち後半の半分は各地のニュースと天気予報で、実質その日の全国ニュースとして取り上げられるネタは絞りに絞られ多くて五本。そこでラグビーのニュース、それも試合結果ではなく、一選手の去就が扱われること自体、かつてなら絶対に考えられません。ラグビーが世間に認めてもらえたんじゃないかと、出世したもんだと。だって平尾が引退したり代表監督に就任した時も、こんな扱われ方はなかったはず、詳しくは知らんけど。まぁ、そこだけ切り取れば良かったと。そしてNHKラグビー押しは当面続くのだろう、私はそう睨んでいます。

 福岡の引退自体はある程度織り込んでいたので、それを知ってすぐに感じたことを素直に口にすれば、まず元首相の森はJOCのトップであり、依然ラグビー界においても事実上トップの一人みたいなものなので、来年の東京五輪開催の確度については、かなりの部分を日本ラグビー協会と共有しているはずだと思うのですよ。だからこの記事なんかも併せて福岡の件も考えるべきなんだろうと。

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 もうこれ以上は振り回されたくないのでしょうね。多分、桑水流なんかは15人制に戻るんじゃないのかな。それで給料もらっているわけだし。他の選手もラグビーから足を洗うのではないと思いますよ。あくまで7人制に見切りをつけたのでしょう。これを機に、できれば羽野も15人制にいったん戻った方が良いと思うな。

 個人的には記念すべき前回五輪の初戦対NZ、振り切ろうとするカカを福岡が捉えたシーン、あれがリオのハイライトだっただけに、福岡の離脱は確かに痛い。しかし決まった以上仕方がない。そしてこれは我々に対する一つのシグナルと見なすべきかと。つまり、真剣に東京五輪を諦める時期に来ていると思うのです。残念ではあるが、外から突き付けられるぐらいなら、潔く自ら切り出す方が良くありませんか?

 それと福岡はヒゲ森現会長の直系の教え子だけに、説得してみせるとか言っていたのに、あれは何だったのでしょう? パナでプレーすることだけを説得したのか、仮にそうなら7人制のHCの岩渕は立場がないのでは? というか、そもそも彼らが上手くやっているのか気になるところ。協会には谷口なんかも紛れ込んでいるだけに、森、清宮のツートップ体制がなんだか怪しく映る。むしろプロ化や新リーグも含めて、全部岩渕にやらせりゃええのに、そう思えてなりません。オックスフォードの人脈も活かせるのだし。

 

大外のその外を駆け抜けた男

 それと福岡って男はほんと賢いなぁ、というのはひしひしと感じますね。

 実はラグビーにおけるWTBには賞味期限というものがあるように思うのです。まぁ正確に言えばどのポジにもあるのでしょうが、一番それが短い。実際、直近二大会連続で活躍したWTBって、ノース(ウェールズ)、メイ(イングランド)ぐらいでは? ベンスミス(NZ)とかアシュリークーパー(豪)みたいにユーティリティーな場合を除くとして。ハバナ(南ア)のような化け物でさえも、07の優勝の翌年から徹底マークでSRでも精彩を欠き始めましたからね。

 NZのミルナー・スカッダーなんかが良い例で、怪我もありましたが、去年は日本に来てもいない・・・・。

 WTBはフィニッシャーなので基本パスはしません。だから、ノースのように中央突破をできない限り、外に逃げるか内に切り込むかの二つの選択肢しかないのです。スカッダーは基本右から上がってトップスピードに乗ったところでお決まりのように内に切って、そこからジグザグに走る、というのがはっきり傾向としてあるので、そこを理解しておけば、敵からするとマークがしやすい。ある程度WTBが試合を重ねると、どのエリアでボールを持てばこう動く、というのがバレてくる。パスがあれば別なんでしょうが、すぐにパスを出すWTBって、ねぇ、そんなのないでしょ。だからコルビー(南ア)なんかも次は厳しいだろうな。

 ラグビーにおけるWTBの賞味期限については、NFLのRBに通ずるものを感じます。あちらの扱われ方も軽過ぎ。あんなに活躍したのにって選手の契約が難航する、そんなケースが結構あるのです。球団にしてみりゃ、肉体的な消耗や、相手チームからのスカウティングの練度によっては来期は真っ新のを使った方が良い、そんな風にあくまでビジネスライクに行くんでしょうね。まぁ、NFLなんかはしっかりと貰ってますからありなんでしょうが、こっちはねぇ、何十分の一ですよ。

 当然、福岡はそんなこと百も承知なのです。医者もありますが、ある意味自ら身を引くような部分もあったのではないでしょうか。

 でも、彼のプレーは特別なんですけどね。左大外からボールを持つと、更にその外のほんのわずかなスペースをスピードで抜いていくという。そんな選手滅多にいません。しかも世界レベルでそれが通じたわけですからなおのことです。

 本当に最初の一瞬の加速は世界トップでした。大会の初めの頃でしたか、ジェイミーが松島と福岡をダブルフェラーリなんて言い出しましたけど、それを聞いた時、何んとベタな、じゃあメイはどうなるんやって思いましたよ。だけど、あの二人は間違いなくフェラーリでした。

 18年の大分でのイタリア戦でミノッツィを置き去りにしたやつと、去年の花園でのPNトンガ戦の後半35分ぐらいにライン際を走り切って獲ったやつが個人的には彼のベストトライだと思います。後者は生で観ました。一生忘れません!

 でも、やっぱり日本代表の福岡の姿を観れないのは寂しいな・・・・。彼の持ち味はアタックだけではないので。

 リスクを覚悟して上がることで魅せた、アイルランド戦でのインターセプトスコットランド戦の強引にもぎとったプレー、普通、あそこにいてはならない選手なのに、そっちの嗅覚も凄かった。スコットランド戦の後半38分、ラックでボールをジャッカルしたのも福岡でした。下がりながらだったので、微妙なプレーと言えなくもありませんが、笛を吹かせない技と雰囲気を持っていたように思います。

 福岡が多くのリスクを背負ってまで、ああして上がれたのは、あの明晰な頭脳でしっかりと状況を読むことができたからだと思います。大外から更に外を駆け抜けるスピードもそうですが、あのディフェンスができるWTBが次に現れるのはいつになるのでしょう? 気長に待ちましょう。

 福岡を花園で観た時、栗原以来の戦慄を感じたのを覚えています。ってことは15年間隔ぐらいかな。でも、ただ速いだけではなく、地頭が良くて冷静でないと福岡の後は務まりません。だから福岡や大阪、もしくは埼玉、群馬あたりの公立の進学校から凄い選手が出て来るのを待つか、もしくは茗渓あたりに期待するしかないように思います。

 とりあえず当面の間は福岡がいなくなって空いた大穴は、タイプはまったく異なりますが羽野に埋めてもらいたいと思っています。福岡が唯一リスペクトする日本人選手、それは間違いなく彼なのだから。

 

日テレの覚悟とNHKラグビー押しの関係

 冒頭でNHKラグビー押しについて触れましたが、実は去年のW杯前、どの試合をどの局が放送するのかを巡っていろいろと勝手に深読みしていたのですよ。まず、放送する局は日テレとNHKだけ。もっといえば直近の二大会を連続して追いかけ、ラグビーをコンテンツとして育てようとしていた日テレの独占と言って良いでしょう。だからサッカーのようにクジの必要はなし。なので、民放間の争いが起こりえない以上、調停役を気取る電通の出番もなし。そこがあのような大成功に終わった大きな要因だと個人的に思っています。ではポイントはどこか、日テレが何試合目を手放すのか、その一点にありました。

 まず、記念すべき開会式とそこに続く初戦が日テレであることは当然。問題は2戦以降のどこをNHKが放送するのか。そして結果はこうでした。 

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 このスケジュールが発表された時、私はこう直感しました。"日テレ、覚悟が甘いぞ"と。

 つまり、プール戦で一番勝ち目の薄い②のアイルランド戦を手放してNHKに譲ったわけです。しかも試合時間をゴールデンに微妙にかからないように小細工までして・・・・。まぁ、実際のところアイルランドは前年オールブラックスに連勝し、直前の6Nは流して、ランク1位、北半球No.1の優勝候補で開幕を迎えたわけですから、宜なるかなと。それでも、そこを相手に大番狂わせを起こした時に生む、感動と熱狂の景色をなぜ想像できなかったのかとあえて問いたい。

 だから当然、準決勝の組み合わせを日テレの読みとして、日本代表はプール戦を2位で勝ち上がって⑤の枠に来ると読んでいたのでしょう。ところがどっこい、ご存じのように見事四連勝で、しかもBPまで三つ取って勝ち点19のぶっちぎりで一抜けし⑥の枠に入ったと。そこでNHKは超ラッキー♪って感じで、急遽南アフリカ戦を総合に捻じ込んで、評判の悪い大河をうっちゃって日曜のゴールデンで放送! 負けはしましたが、まんまと年間最高視聴率41.6%を棚ボタで獲得というわけですから、さぞかしラグビー日本代表に感謝したことでしょうよ。紅白にも出るわけですわ。

 そこで思い返すと、④のスコットランド戦で勝利した後、日テレが一転掌を返し、その余韻を伝えようともせず、感動のフィナーレの10分後にはあっさりと放送を打ち切るという暴挙に出た意味が判るような気がするのです。これ以上のラグビーの露出は来週の日曜同時間帯の視聴率に悪影響を与えるだけだ、許さん! というわけなのでしょうよ。しかも最後の二分間には番宣までしっかりと入れ腐る念の入れよう・・・・。

 日テレはアイルランド戦の勝利を最後まで読み切れなかった。つまりそこで、ラグビー日本代表とどこまで心中できるのか、その覚悟も試されていたってわけです。まぁ、ブライトンの奇跡を地上波Live中継しなかった、あの失敗を今回も繰り返したという構図か。あそこもまさか勝つとは夢にも思いませんわな。

 なので、NHKラグビー押しは当分続くと思うのです。最小の投資で最大の結果を得たわけですから。